7月上旬にアメリカスズカケノキの異形葉性の確認作業を始めました。

 途中で、都内街路樹のプラタナスの名札の間違いに気づき、都に名札の修正を提案し、その内容をこのブログでもご紹介しました。

 ではありますが、担当職員も悪気があって名札を間違えるはずもなく、私がミスを指摘したことで、肩身が狭い思いをするだろうと、申し訳ない感もあります

 そこで、多少の罪滅ぼしに、プラタナス3種を簡単に見分けられる方法を考案する作業に取り掛かりました。

 そんな目的もあって、先週は目黒の林試の森公園を訪ね、アメリカスズカケノキを観察してきました。

 当ブログで何度も紹介しましたが、樹木は樹齢と共に葉形を変えますので、より多くのプラタナス3種の樹齢や植栽環境の異なる木を見比べる必要があります。

 そのような目的で林試の森公園を歩いていますと、シナユリノキを説明する一枚の掲示板に目が留まりました。

 その掲示板には、「ユリノキに比べ・・葉の切れ込みは深くなっています・・」と記されていました。

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 すぐに、「あ! これは間違い」と思いました。

 何故なら、昨年の8月に気付いたユリノキの異形葉性

 そして、小石川植物園で観察したシナユリノキの異形葉性

 などの観察で、両者の葉の切れ込みに差は認められなかったからです。

 参考までに、以前のブログで使用した両者の葉形を以下に再掲します。

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二枚ともユリノキの葉         全てがシナユリノキの葉  

 掲示板を見て、その場でシナユリノキを見上げ葉形を確認しました。

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 実際のシナユリノキの葉は、何度見直してもユリノキの葉より切れ込みが深い形ではありません。
  
 後日、林試の森公園で親切を頂いた中村様に、この掲示板の内容を問い合わせたところ、

 「林業試験場から都に移管された、平成元年開園当時作成されたままの内容を踏襲している」とのお話でした。

 つまり、林業試験場の研究員の情報を基に作成されているようです。

 この話を聞いて興味が湧き、図書館で幾つかの書籍を当たりました。

 そして、見つけたのが毛藤勤治著「ユリノキという木 アポック社出版局 1989年」です。

 その第一章 三 52ページに

 中国からもたらされたシナユリノキは
 「1908年にロンドンのキュー植物園に移植され・・・、ユリノキとシナユリノキとの形態的な区別点は(中略)いくつかの母樹からの標本によって次第に明らかにされ、その後の検索表によると、(中略)シナユリノキの葉はユリノキによく似ているが (中略)シナユリノキの葉の切れ込みは深く、主脈はより長い、・・・」

 の記述を見つけました。

 この文に記載された「検索表」の作成年代がいつ頃かは分かりませんが、常識的に考えて、イギリス人のことですから、1908年に移植した木の検索表の作成を40~50年もほっておくはずはなく、第二次世界大戦が終わった1950年前後には作成されていたと考えます。

 さて、筆者は以前ヤマグワの異形葉性発現頻度とヤマグワの幹回りとの相関を求め、幹回りが50㎝程度を超えるまでは分裂葉の発現がみられること、


 これらのことを踏まえ推察すると、シナユリノキがイギリスに移植されて約40年後の1950年頃に、あるいはその以前にシナユリノキの検索表が作られたのであれば、その木の葉は、切れ込みの深い葉が多かったはずです。

 一方、比較したユリノキは、イギリスでは既に大木に育っていたでしょうから、そのような木に付く葉は切れ込みが浅いものばかりだったはずです。

 さて、もう一度林試の森公園のシナユリノキの解説を見直しますと、

 シナユリノキが林業試験場に持ち込まれたのは、木の太さから考え、そう古いことではないはずです。

 そして、試験場の研究員がシナユリノキの若い木を見て、英語の検索表も確認した上で、「シナユリノキの葉の切れ込みはユリノキよりも深い」との解説文を作成したのだろうと、筆者は考えます。
 
 切れ込みが深くなるような異形葉は、若木やヒコバエ、徒長枝、強剪定樹の更新枝、などの枝の伸長ポテンシャルの大きい場合に出現します。

 また、そのような枝では、縦方向の伸長だけでなく、通常の枝と比較し、太さも有意に大きいことをニンジンボクで確認しています。

 そして、そのような全ての作用を担っているのはオーキシンです。

 植物形態から種を判断する場合などに、葉形は主要な要素ですが、上記のような伸長ポテンシャルの高い枝に付く葉であるか否かに、十分な注意を払う必要があると考えます。

 また高山の雪渓周辺などに生育するスミレやアザミなど、短期間に生育せざるを得ない状況下にある植物の葉に鋸歯が多いとき、それを別品種とするか否かなどの議論にも、異形葉性発現の観点からの考察が必要と考えます。


 追記:2018年8月24日
    台風一過、小石川植物園で折れ落ちたユリノキの枝と、その木の
    根本に育つヒコバエの葉を撮影してきました。
    ユリノキとシナユリノキを「葉の切れ込み」をもって比較するこ
    とが
意味を成さないことを理解頂けると思います。

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折れ落ちた枝               その枝の葉

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ユリノキ根本のヒコバエ          そのヒコバエの葉


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