好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

カテゴリ: プラタナス


 初めにプラタナスと呼ばれるスズカケノキ科3種の概要を説明します。

 スズカケノキはヨーロッパ東南部、アジア西部などを原産地とするスズカケノキ科(プラタナセアエ [Platanaceae])の落葉高木で、北米原産のアメリカスズカケノキ(以下 アメリカSと略す)とスズカケノキの間に生まれた雑種がモミジバスズカノキ(以下 モミジバSと略す)です。

 日本へは明治時代にそれら3種が導入され、プラタナスの総称で、公園樹や街路樹として広く親しまれてきました。

 東京都内の国道の街路樹として、プラタナスはイチョウに次いで二番目に多く(平成27年)、その殆どがモミジバSで、アメリカSやスズカケノキを見かけることは稀で、植物園や公園も同様、殆どモミジバSと判断します。

 街路樹として、よく目にするプラタナスですが、日本では、それら3種はスズカケノキ科に属すことから、「スズカケノキ」の総称で呼ばれ始めました。

 そのような状況下で、日本でよく目にする、雑種のモミジバSが、「スズカケノキ(総称)」と呼ばれ、混乱が始まったようです

 モミジバSはスズカケノキとアメリカSの雑種ですから、スズカケノキ≠モミジバSですが、会話中にモミジバSを「スズカケノキ(総称)」と表現しても間違いとは言えない状況が続いています。

 1970年頃、「はしだのりひことシューベルツ」が「風」という曲で「プラタナスの枯葉舞う冬の道で」と歌った頃、プラタナス=スズカケノキとの解釈が定着しましたので、多くの日本人はプラタナスやスズカケノキの言葉で、モミジバSをイメージするようです。

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モミジバスズカケの樹形

 以上が、プラタナス3種が日本で混乱している状況です。
 その混乱は、ズボンのチャックが開いた状況を見る気分ですが、普段の暮らしに不都合はありません。

 なので筆者が、宮城山形岩手のアメリカSを訪ねてトヤカク言っても、「余計なお世話」ですので、
好奇心からの観察で「街路樹の名札が違う」などと書いても、筆者に他意はありませんので、どうぞお気を悪くしないで下さい。

 さて、ここからが本題です。

 筆者は昨年の秋に、小石川植物園のアメリカSの落葉を見て、鋸歯のある葉とない葉があることに気付きました

 昔からヒイラギも、鋸歯のある葉とない葉が知られ、そのような形の異なる葉を異形葉と称します。

 アアメリカSも鋸歯のある葉とない葉が認められますから、異形葉を発現していることになります。

 そこで筆者は、都内の公園などを訪ね、数多くのアアメリカSを観察し、異形葉発現の検証作業を行いました。

 ところが、その作業中に、上記プラタナス3種が混乱している状況に気付きました。

 更には、アメリカSの異形葉性に気付いたことから、スズカケノキやモミジバSにも異形葉が発現する可能性を考え、それらを究明する為に、プラタナス3種を正確に見分ける作業に取り掛かりました。

 最初にスズカケノキの観察を行いました。

 スズカケノキの特徴 日本での観察

 スズカケノキの見分け方

 次に、アメリカSを観察しましたが、アメリカSの名札が付いてはいても、事実確認が必要となり、作業は遅々として進みません。

 そんな時、台風24号が10月初旬に東京をかすめ、杉並区善福寺川緑地のアメリカSの枝を折り去り、落ちた枝に多くの葉が残されていました。
 
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 アメリカSの葉を観察するときは、まず最初に葉の葉脈に着目します。

 以下の図のように、アメリカSは葉柄と葉の分岐点で主脈が3本に分かれ、左右の主脈の途中から、通常1本の側脈が葉縁に向かいます。

 そして、先に観察したスズカケノキと異なり、アメリカSでは左右の主脈が成す角度(開度)が90°よりも大きいのです。
 
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 アメリカSは高木なので、枝に付く葉の位置が高く、左右の主脈の開度を直接測定することは殆ど困難です。

 筆者の如きアマチュアは、植物園や公園で、研究者のように葉を採取し観察することはできないのです。

 しかし今回は、善福寺川緑地で、アメリカSの葉が、手に触れる場所に大量に積み上げられていました。

 100円均一で、透明なプラスチックケースを購入し、傷んで捩れた葉をその中に挟み、正面から一枚ずつ葉を撮影し、その画像をPCディスプレー上で、小学生が使う分度器を用い、左右主脈の開度を計測しました。
 
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 この日は128枚の葉を撮影し、以前に、低い枝の葉を正面から撮影した画像24枚を加え、全152枚の葉で左右主脈間の開度を計測し、平均開度 105.6°を得ました。

 また、測定値を10°毎に仕分け整理し、開度毎の発現回数をグラフ化しました。
 
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 グラフ上の赤い縦棒 120≦開度<130は全体の30%を占めます。

 また、スズカケノキでは殆ど全ての葉が90°以下ですが、アメリカSの葉で、開度90°以下の葉は全体の3%にとどまり、開度99°以下の比率でみても20%未満という結果となりました。

 120開度<130の範疇の葉の画像を以下に提示します。

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左上 開度125°の葉          右上開度120°の葉

 つまり、上記のような葉形の葉がアメリカSを代表する形態と考えます。

 その判断の根拠とするのは、今回の善福寺川緑地の木1本を含め、小石川植物園1本、日比谷公園3本、都立光が丘公園2本、林試の森公園2本、の計9本のアメリカSの観察ですが、「アメリカSの葉はこうだ」と述べるには、まだまだ観察数が足りません。

 そして一番の問題は、以前日比谷公園でアメリカSの名札を付けていた木がモミジバSと判定されたように、雑種であるモミジバSの判別という難しい課題が残されます。

 しかし、両親から生まれた子供の外貌は、父親と母親を足して2で割るような顔になるとは限らず、どちらかに瓜二つ、ということもあるので、木の外観だけで100%識別するのはほぼ不可能と考えます。 

 秋の深まりとともにプラタナスの葉が枯れ始めましたので、今年の作業はここで一旦中断しますが、いまだ展望は開かれぬままです。

  
 表題に「日本での観察」と付記したのは、日本に植栽されたスズカケノキ(Platanus orientalis)の本数が極めて限られたものであることによります。

 そのような条件下の観察であることを御承知おき下さい。

 スズカケノキ(Platanus orientalis)はイタリア以東のクロアチア、ギリシャ、ブルガリアなどを原産とする、スズカケノキ科スズカケノキ属の落葉高木で、樹高は30mに達します。

 スズカケノキ科はスズカケノキ属1属からなり、世界に8-11種が知られますが、日本には上記スズカケノキとアメリカスズカケノキ、モミジバスズカケノキの3種が導入されています。

 この中のモミジバスズカケノキはスズカケノキとアメリカスズカケノキの自然交配種(雑種)で、乾燥や大気汚染、剪定などに強いことから、街路樹として広く植栽されます。

 スズカケノキ科スズカケノキ属の総称はプラタナスですが、日本で目にするスズカケノキ属は殆どがモミジバスズカケノキで、プラタナスと言えばモミジバスズカケノキと思う人も多いようです。

 更には、プラタナスの和名がスズカケノキ属であることから、何時の間にか、スズカケノキという言葉がスズカケノキ属の総称として使われ、スズカケノキはモミジバスズカケノキをも含めた意味として使用される混乱が生じました。

 このような混乱の結果、都内のモミジバスズカケノキの街路樹に「スズカケノキ(Platanus orientalis)」の名札が付けられた様子は、以前にご紹介した通りです。

 そのような状況から、スズカケノキ属3種を正確に識別する情報を提供すれば、混乱も収まると考え、都内を中心にスズカケノキ属3種の詳細な観察をスタートしまた。

 スズカケノキ属3種の判別方を、「スズカケノキの見分け方」で説明しましたが、特にモミジバスズカケノキは雑種なので、両親の間に生まれた子供が、父か母にのどちらかにそっくりなように、外見だけで判断することは極めて難しいのが実態です。

 例えば、アメリカスズカケの特徴である、樹皮が縦に割れるような特徴も、若木では鹿の子斑ですし、果実に関しても、強剪定された街路樹は果実を付けることが少なく、更には、アメリカスズカケノキは果実が1個、稀に2個と記され、モミジバスズカケノキは1~3個と説明されますが、実際にはモミジバスズカケノキも1個だけのことが多いなど、現実的には、果実数で種を判断することも極めて困難です。


 そもそもの話として、モミジバスズカケノキは、スズカケノキとアメリカスズカケノキの雑種ですから、理論上はスズカケノキとアメリカスズカケノキを正確に判定し、それ以外をモミジバスズカケノキと判断する以外に、3種を識別する方法はありません。
 
 しかし日本では多くの場合、モミジバスズカケノキは挿し木での増殖がメインと推測されますので、数多くのプラタナスを観察した結果、実態として街路樹などに用いられるモミジバスズカケノキも外見上の変化は限られますので、日本では、かなりの確率で3種は識別し得ると考えます。
 
 その具体的な方法は葉形を比較することに因りますが、スズカケノキ、アメリカスズカケノキ、モミジバスズカケノキ3種の平均的な葉形は以下の写真の通りです。

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スズカケノキ(小石川)    アメリカスズカケノキ(小石川)

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モミジバスズカケノキ(小石川)

 今回はスズカケノキ(Platanus orientalis)の葉形の特徴を説明します。

 都内で確実にスズカケノキと判断できる木は、小石川植物園2株、日比谷公園2株、林試の森公園の4株、

 更に、国立国会図書館、日赤本社、星薬科大学、慶応大学病院、東京共済病院、三宿病院、川崎市の虎ノ門病院分院などに、ギリシャのコス島に育つスズカケノキの末裔である「ヒポクラテスの木」と呼ばれる木が葉を茂らせています。

 しかし「ヒポクラテスの木」と呼ばれる木は全てDNAが同一のクローンです。

 また日比谷公園のスズカケノキは、以前林業試験所であった林試の森公園から持ち込まれたもので、今回観察したスズカケノキは、実質的に4、5本の個体を見比べるに過ぎないことになります。

 しかし、そうであれば尚更、日本では限られた数のスズカケノキしか植栽されていない筈ですから、スズカケノキの葉の特徴を正確に把握すれば、スズカケノキとモミジバスズカケノキを取り違えることはないと思えます。

 以下に、スズカケノキの葉の特徴をまとめます。

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 (小石川)

 代表的なスズカケノキの葉の葉形はカエデの葉に似て、鋸歯を伴う五つの裂片に分かれます。

 葉柄の延長線上に、葉の中央へ主脈が伸び、その主脈は中央裂片の先端に達します。

 葉柄と葉身の接点から左右対称に2本の葉脈が伸びて、三行脈となって、左右に広がる裂片の先端に達します。

 また、夫々両側の葉脈の途中、葉柄と葉身の接点の少し上辺りから、左右対称に側脈が1本ずつ伸びて、5本の葉脈が目立ち、夫々が葉の裂片の先に達します。

 葉脈は、中央の主脈が最も長く、その左右に伸びる2本の葉脈は主脈より僅かに短く、これら2本の葉脈は90°程の開度をなします。 

 今回約13株のスズカケノキで観察した500枚以上の葉の全てに於いて、この2本の葉脈がなす開度が90°を超えることはありませんでした。

 上記5本の葉脈の夫々に伴い、五つの裂片が形成されますが、夫々の裂片は、葉脈の長さに比例した大きさでした。

 また、中央裂片とその左右に広がる裂片の間に、フィヨルドを連想させるようなスリットが切れ込み、各スリットの最奥部の両側は、ほぼ平行となる葉が殆どでした。

 三行脈の一番外側の葉脈の途中からのびた側脈に伴う裂片と、その上の裂片との間にスリットが形成される場合、開度が90°以上に開くことはめったにありません。

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 (小石川)

 以上のように、今回日本に植栽されたスズカケノキでは、

 1. 葉の中央に伸びる主脈が最も長く、次いでその左右に伸びる葉脈が
  長い。

 2.主脈の左右の葉脈の、相互の開度は90°を超えることは殆どない。

 3.中央裂片とその左右の裂片の間に形成されるスリットは、フィヨルド状
   で、最奥部の両側は平行する葉が殆どである。
 

 の3項目が標準的な葉形の特徴と考えますが、種々の環境条件等の影響を受け、葉形は種々に変化します。 


 観察したスズカケノキの樹形と木毎の葉形変化を示します。


 スズカケノキの樹形と葉形変化 
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   小石川植物園のスズカケノキ:葉の右下部に側脈が2本の伸びる


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   林試の森公園のスズカケノキ:葉が育つ当初から基本的構造は変わらない

  
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   日比谷公園公会堂前のスズカケノキ:ほぼ全ての葉が標準形を示す


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   日比谷公園公会堂前のスズカケノキ:鋸歯が多めの葉 鋸歯が少なめの葉

  
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   国立国会図書館のスズカケノキ:側脈の出る位置が三行脈分岐部に近い
  

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日赤本社のスズカケノキとその解説

   
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   星薬科大学のスズカケノキ:この木は側脈のない葉の比率が高い

   
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   虎の門病院のスズカケノキ:条件の良い場所の木の葉は標準形が多い

     
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   慶応大医学部のスズカケノキ
   :
日当たりが悪い木の葉は裂片の発達が不十分で、スリット幅が広い


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   三宿病院のスズカケノキ
   :側脈に伴う裂片の発育が悪い時はスリットを生じないこともある。

   
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   東京共済病院のスズカケノキ
   :この木の多くの葉は標準形だが、分枝直後は葉形が小さく、スリットも浅い



 最後に、筆者の主要なテーマである異形葉性がスズカケノキに認められるか否かの考察結果を追記します。

 以下は、日比谷公園の小音楽堂前のスズケケノキに生じたヒコバエと本体の葉の写真です。

 ヒコバエも本体枝の葉も鋸歯を認めますので、ヒイラギのように、「成木の葉に鋸歯が無くなる」とまでは言えませんが、鋸歯の数等を見れば、その質的な差は歴然です。

 これを異形葉性と言うか否かの議論は行いませんが、筆者が従来からヒイラギやヤマグワなどで観てきた現象と同等の変化がスズケケノキにも生じていると、筆者は考えます。

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 鋸歯が多いヒコバエの葉       鋸歯が少ない成木本体の葉


 ※ プラタナスの観察は異形葉性に着目したことに始まります。



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 一種間ほど前、都内プラタナスの街路樹に間違った名札が掲げられていることを紹介しました。

 しかしその後、図書館で解説書を見るとプラタナスに関する記述はまちまちで、解説書の内容だけでプラタナスを見分けるのは難しいことが分かりました。

 であれば自ら調べ、3種を見分けられる情報を提供すれば、きっと役立つはずと考え、都内の公園などでプラタナス3種を見比べる作業を始めました。

 ではありますが、以前のブログで説明したように、木は樹齢によって葉形を変えますし、アメリカスズカケノキは日本での植栽数が少なく、アメリカスズカケノキと称していても、全てが正しいとはかぎりません

 それでもとにかく、数を当たるしかないので、昨日も日比谷公園に出向き、プラタナス3種を見比べてきました。

 そして日比谷公園公会堂横の「アメリカスズカケノキ」の名札が付いた木を眺めますと、

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 一本の果柄に3個の実を付けていました。

 しかも、そのような果柄は一つだけではありません。

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 更に驚いたことに、4個実を付けた果柄も認められます。

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 アメリカスズカケノキ Platanus occidentalis を解説した書物には、

 「集合果は房状にならず、長い柄の先に1個だけつく」
  朝日百科 植物の世界 8-184

 「緑の果実は(中略)、通常単生であるが、まれに1対になって・・・」 
  A- Z園芸植物百科 1080p 英国王立園芸協会

 「実は径約3㎝で、普通1個、時に2個ずつぶらさがる」
  
樹木の葉  実物スキャンで見分ける1100種 147p 山と渓谷社

 などと記されます。

 ネット検索すると

 企画:千葉県立中央博物館



 などの記述を見つけました。

 Wikimediaに記載された「rarely clustered」は2固以上とも解釈できますが、それ以外は全て「1個ないし稀に2個」と記されています。

 だとすれば、日比谷公園の「アメリカスズカケノキ」の名札を付けた1果柄に3~4個の実を付ける木はどう解釈すれば良いのでしょうか。

 一番楽しいのは、

 「日比谷公園でアメリカスズカケノキの新種が見つかる!」です。

 日比谷公園で世界にただ一つ、アメリカスズカケノキの変種発見、となれば、2年後にオリンピックを控え、話題沸騰です。

 しかも、定年退職後の素人が気付いたとあれば、日本の植物愛好家の底辺の広がりを証明することにもなります。

 一番悲しいのは、名札の付け間違いです。

 しかし、この木の樹皮や葉形から判断する限り、アメリカスズカケノキで間違いはないようにも思えます。
 
 追記:2018年9月12日 
 公園協会に問い合わせた結果、大学教授の同定でモミジバスズカケノキとの結論になったそうです。
  但し、純然たるものモミジバスズカケノキとは言い難い、とのことです。

 この木の名札は外されるそうです。

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 その他の想定として
 
 「アメリカスズカケノキは稀に、1果柄に複数の実を付けることがあったが、それに誰も気づかなかった」です。

 世界広しと言えども、プラタナスを正確に見分けられる人がそれほど多いとは思えません。

 研究者は新しい領域に目を向ける傾向があり、研究が尽くされたアメリカスズカケノキの形態などに目を向ける専門家は少ないはずです。

 さて、いったい真実は何処にあるのでしょう。

 それにしても、大都会の日比谷公園での新種発見ともなれば、「東京でだけ見ることができるプラタナス」は世界中から注目を集めるかもしれません。

 更に同時に、
 
 だけではない、椿ツツジ菖蒲、朝顔、紅葉など、園芸大国の日本の魅力を、訪日する観光客にアピールしたいものです。

 数百年も前から続く肥後六葉のように、江戸時代、日本では武士が花の栽培に熱中したように、花を愛で、平和を愛する国であることも理解してもらえるかもしれないと、極めて楽観的な発想を楽しんでいます。


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 前回都内街路樹のモミジバスズカケノキにスズカケノキの名札が付されている様子をご紹介しました。

 そのとき筆者は、モミジバスズカケノキを識別した根拠を示しませんでした。

 そこで今回、当該街路樹がスズカケノキではないと判断した特徴
などを説明します。

 スズカケノキ Platanus orientalis Linn. はヨーロッパ南東部から西アジア原産の落葉高木で、樹高は10~30mに達し、樹皮が鹿の子まだらに剥げます。

 葉は大きなカエデの葉に似て、掌状に5~7の裂片に分かれ、葉柄基部には小さな托葉があります。

 東京では4~5月に雄花と雌花を別々の葉の付け根に咲かせ、秋になると一本の果軸の先へ、径3.5㎝程の球形果を3~4個連ねて下垂します。

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 古い時代から、街路樹、公園樹、庭園樹として植栽され、医聖ピポクラテスがこの木の下で医学を説いた逸話は前回のブログで紹介した通りです。

 スズカケノキは乾燥や湿潤地にも適応し、剪定にも強い為に、街路樹として世界中の都市で広く植栽されますが、日本の街路樹は殆どがモミジバスズカケノキです。

 東京都内の街路樹もモミジバスズカケノキが主と判断しますが、前のブログに記したように、「スズカケノキ」の語句は、プラタナス同様、日本ではスズカケノキ科の総称にも用いられますので、【都内に街路樹として「スズカケノキ」が多く植栽されている】のような記述を時々目にします。

 スズカケノキの幹は、以下の写真のように、樹皮が鹿の子まだらに剥げる特徴を有しますが、アメリカスズカケノキの茶褐色の樹皮は剥がれず、縦に割れ目が入り、老木であれば容易に見分けられます。

 但し、アメリカスズカケノキがこのような状況(下段写真)になるには一定の樹齢が必要で、若木の樹皮はスズカケノキ同様に鹿の子まだらですから、若木は樹皮だけで識別することはできません。

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スズカケノキ 小石川植物園

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アメリカスズカケノキ  小石川植物園

 モミジバスズカケノキの樹皮も鹿の子まだらですので(例外も多い)、樹皮だけを頼りにスズカケノキとモミジバスズカケノキを見分けるのは困難です。

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モミジバスズカケ 日比谷公園
  
 スズカケノキの葉は左下写真のように、一般的には5裂片に分かれ、中央裂片と左右の裂片の間は鋭角なスリットで隔てられます。

 また、葉柄のすぐ上、葉の左右に広がる裂片と、更にその上の裂片との間にも、狭い角度のスリットが陥入します。(左下写真)

 スズカケノキの葉は、中央に一本の葉脈が走り、その左右に2対の葉脈が伸びますが、アメリカスズカケの場合は、通常中央葉脈の左右に1対の葉脈が伸びます。

 そのような葉脈フォルムに伴い、スズカケノキは葉の中央裂片と、左右2対の夫々の葉脈に沿った裂片が4枚形成され、通常5枚の裂片が一枚の葉を構成します。

 一方アメリカスズカケは、多くの場合、中央裂片と、左右2対の葉脈に沿った裂片が一枚ずつ形成され、左下写真のように、夫々の裂片を隔てるスリットが認められない場合、分裂葉と言えない葉形になります。

 以上のような、両者の葉の特徴を認識することで、殆どの場合、スズカケノキとアメリカスズカケノキを容易に認識することができます。

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 しかし、上記2種に両者の交配種であるモミジバスズカケノキ(下記写真)が加わりますと、途端に話がややこしくなります。

 モミジバスズカケノキは両者の交配種ですから、両者の特徴を兼ね備えますが、子供が父母のどちらかに似るように、個々のモミジバスズカケノキに現れる形質は変化に富み、スズカケノキとアメリカスズカケノキの中間という話になりません。

 下のモミジバスズカケノキの葉は、中央裂片右のスリットは鋭角ですが、左のスリットは大きく広がっています。

 また、葉の右側には2本の葉脈に沿った2裂片を認めますが、葉の左側には1枚の裂片しか認められません。

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 スズカケノキは花が終わると1果実に種子を500粒ほど集めた球形果を、1個の果軸に3~4個連ねて下垂させると説明されます。

 しかし実際には、1~2個だけの場合もあり、球形果だけで判断することも困難です。
  
 アメリカスズカケノキは、通常1個の果軸に果実が一個付きますが、高い枝に果実が密集するので、実際の分け作業は容易ではありません

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アメリカスズカケ 小石川植物園

 モミジバスズカケノキの果実は、書物によって、1~2個、2~3個あるいは1~4個などと記載されています。

 筆者が小石川植物園、日比谷公園、新宿御苑などで観察した限り、モミジバスズカケノキの果実は1~2個でしたが、1個だけ付けた木も数多く観察してきました。

 なので、果実が1個=アメリカスズカケノキ、という果実の個数にだけ頼る判断は避けるべきですす。

 また、街路樹のモミジバスズカケノキは殆ど果実を付けていないので、果実の個数で樹種を識別しようとしても、現実的ではないと思います。

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モミジバスズカケ 小石川植物園

 以上、スズカケノキの特徴や見分け方を、樹皮、葉、果実に関し、他2種と対比しながら見てきました。

 特に、スズカケノキとモミジバスズカケノキを識別する時は、モミジバスズカケノキがスズカケノキとアメリカスズカケノキの交配種であることから、総合的、多角的な判断が求められますが、上に記したように、子が両親のどちらかに瓜二つのこともありますから、外見だけでスズカケノキとモミジバスズカケノキを識別するのは、樹木を扱うプロでさえも容易ではありません

 以上のプラタナス種の識別上の留意点を全て踏まえ、今回都内で観察した街路樹は、
 確認し得た全ての葉で

 ① 葉の中央裂片の脇に鋭角に入るスリットを認めない。

 ② 葉柄のすぐ上と、更にその上の裂片間にスリットが陥入しない。 

 ことからモミジバスズカケノキではあっても、スズカケノキではないと判断しました。

 そして多分、都内街路樹のモミジバスズカケノキは雑種でありながらも、葉の特徴にブレが少ないことから、挿し木増殖によるものだろうと考えています。


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 昨年の秋、小石川植物園でアメリカスズカケノキの落葉で異形葉性に気付きました。

 先月、そのようなアメリカスズカケノキの異形葉性を複数の木で確認しようと、インターネットで「アメリカスズカケノキ」を検索して、植栽があることを確認し、杉並の善福寺緑地や日比谷公園に出かけ、葉の観察を行いました

 このとき同時に、著名な某公園のホームページでアメリカスズカケノキ植栽の記載を確認し、公園を訪ねてガイドセンターで教えてもらった植栽位置に足を運ぶと、そこには3本のモミジバスズカケノキの巨木が枝を広げるばかりでした。

 これだけの公園で、そんなこともあるんだと、ちょっと驚きました。

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 そして後日、都内の街路樹を観察しますと、一本のモミジバスズカケノキに次のような名札が掲げられていました。

 「Platanus orientalis Linn. スズカケノキ」 

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 上記名札の記載内容を説明しますと、

 本来のスズカケノキ Platanus orientalis Linn. はスズカケノキ科に属する落葉高木ですが、日本にはスズカケノキとアメリカスズカケノキ、更に両者の交配種であるモミジバスズカケノキの3種が移入されています。

 日本の街路樹に植栽されているのは主にモミジバスズカケノキで、3種は総称してプラタナスとも呼ばれます。

 また、全てがスズカケノキ科に属することから、3種の総称として慣習的に「スズカケノキ」が用いられています。

 つまり、上記写真の「スズカケノキ」は、総称の意であれば間違いとは言えませんが、同時にPlatanus orientalis Linn. という学名が記されていますので、この場合スズカケノキ科に属するスズカケノキという一種のみを意味します。

 つまり、モミジバスズカケの木に、全く種の異なるスズカケノキの名札が付されているのです。

 手書きでないと判断できる名札に東京都のマークが見えますので、都内のモミジバスズカケの街路樹全てに同じ名札が掲げられている可能性があります。

 スズカケノキはギリシャ時代から知られていた樹木で、ヒポクラテスの故郷であるコス島の広場には、ヒポクラテスが晩年、木陰で弟子達に医学を教授した「ヒポクラテスの木」と名付けられた、大きなスズカケノキが葉を広げているそうです。

 日本赤十字社の創立100周年には、ギリシャ赤十字社からこの木の若木と種子が寄贈され、全国の医療機関に配布されたそうですから、スズカケノキを見る人が見れば、この間違いは一目瞭然です。

 2年後に東京オリンピックを控え、全世界からお客様を迎える日が来る前に、東京都の顔の一部である、モミジバスズカケの街路樹に付された不注意な名札が修正されることを願っています。

 参考までに、

 アメリカスズカケノキの学名は Platanus occidentalis L.

 モミジバスズカケの学名は Platanus acerifolia Willd.

 です。


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