好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

カテゴリ: ヒガンバナ


  前回のブログでヒガンバナ球根の内部構造を説明しました。

 ヒガンバナの仮軸分枝システムを再度見直すと、ヒガンバナ一個の球根内に、花を咲かせる組織が茎軸「Ⅱ」先のS、茎軸「Ⅲ-1」先のfの二つあり、下図に記されていませんが、子球Ⅲ-2の生育が進めば、その先に花を持つ可能性があります。

 筆者は今回の観察時に以下の仮軸分枝システムを全く認識していませんでしたが、今の目で再度、観察時に撮影した花茎の写真を見直し、花茎の位置を確認してみました。
ヒガンバナ仮軸分枝システム
 
 構造を理解せずに撮影した写真での判断ですが、殆どの花茎は「Ⅱ」のSから出るようです。

 そして花茎が2本立つ場合、左下写真では「Ⅱ」のSと「Ⅲ-1」のfと判断すべきですが、右下写真では明らかに分離し始めた球根から花茎が出ていますので、「Ⅱ」のSとⅢ-2の子球が花茎を出したことになります。(球根は同じ外皮で覆われています)
B球形027花茎2本 H2分球-001   
 そしてまれに、以下の写真のような3本の花茎を伸ばした球根を目にしました。
 この球根は全てが一枚の外皮で覆われています。
 B球形023花茎3本?
 これらの事実から、ヒガンバナの球根は、個々の器官の条件に基づき、夫々が独立して花茎を伸ばすように見えます。

 3年分の仮軸分枝を抱合するヒガンバナの球根ですが、個々の球根内で毎年生じる器官をトータルマネジメントするシステムは備えていないと思えます。

 今回612個体を計測した結果、径30㎜以上の球根が花茎をする率は58.4%、同35㎜以上が69.2%、同40㎜以上が75.9%でしたから、ヒガンバナが花を咲かせる為に、球根の肥大生長が必要条件であることは間違いなさそうです。

 しかし、コロニーGは14個体の小さな集団ですが、花茎を有する8個体は、全ての球根径が40㎜以下でした。
 そのような小さなコロニーほど花茎を有する株の比率が高いように見えます。

 このことから、球根が一定以上の大きさに育てば、花茎を出す条件として、肥大生長以外の環境要因などが影響力を増すかもしれません。

 あるいは、球根が密集すると、栄養条件が整っても、花茎発生を抑制するファクターが発現してくる可能性もありそうです。

 そのように考える理由として、

 今回ヒガンバナ8コロニーで球根径を計測しましたが、その全てで球根径別分布をグラフ化し、その全てで以下のグラフのような R2値が高い近似直線を得ました。
ヒガンバナC群 球根径別分布
 
 そのような、各コロニーの規模と近似直線の傾き(y=ax+bのa)、即ちコロニー個体球根径分布の関係をみたのが以下のグラフです。

 コロニーの規模が大きくなるほど、小さな球根の比率が増し、球根の成長が妨げられることが示されました。

 このようなコロニー環境が、温度環境や密集による圧力上昇、養分の奪い合いも含め、ヒガンバナの開花に影響を与えない筈はありません。

コロニー個体数と根径分散傾斜の関係
 
 ヒガンバナの開花や繁殖を考える場合、個々の球根だけでなく、コロニー全体を一つの生命体として認識する視点が必要と考えます。


 ところで、ヒガンバナは球根のみで増えますが、毒を持つために動物は餌としません。

 そのようなヒガンバナが勝手に増え広がる現象を各地で目にしてきました。

 2年前に東北のヒガンバナを訪ねたとき、茨城県の西連寺でヒガンバナが増え広がる理由の一つとして「降雨で生じた地表を洗う水流」があると考えました。

 今回の観察で、ヒガンバナが繁茂密集すると、直径1㎝にも満たない小さく軽い球根が恒常的に生み出されるシステムが明らかとなりました。

 左下写真は掘り起こしたコロニーAを下から見たものですが、球根の根が密に絡み合い、大きな球根程地中深く根を伸ばしています。

 右下写真はそれを横から写した写真ですが、小さな球根の多くがコロニーの表層に浮き上がる印象を受けます。
   A計測個体群根001 A計測個体群A010
 そのような球根は、地中深く根を張ることはなく、ちょっとした降雨で容易に流出するはずです。
ヒガンバナ球根024
 2年前の直感的な感想が、今回の観察で裏付けを得た印象があります。

 コロニーが密度を増すと、繁殖拡大のためには、新天地に移動する必要があります。

 密度を増したコロニーで小さな個体が増加する現象は、種の生育地拡大に寄与している可能性があります。
 

 今回の観察は、ヒガンバナ球根の形態や生態が開花時期に与える影響を検討する目的で行いました。

 観察の結果

  ● 球根内部の分枝、子球毎の条件で花茎が出るらしい。

  ● 大きなコロニーでは、球根個々の温度環境が異なる可能性があり、
   それが個体の開花日に差を生じさせる可能性がある。


 などの知識を得ましたが、開花に至る要因を明らかにすることはできませんでした。

 今回の結果を受け、次回は地温変化と開花との関係を検討したいと考えています。

 そのような検討時には、コロニーの影響を配慮すべきことを今回の観察で認識しました。

 そしていつかは、ヒガンバナを観光資源とする地域の開花予想に貢献する結果が得られれば嬉しい限りです。


 最後に、私の様な部外者にオープンな観察の機会を与えて頂いた小石川植物園とご厚誼を頂いた方々に感謝を申し上げます。





 小石川植物園でヒガンバナの球根612球を計測観察しました。

 ヒガンバナは原則として種を作らず、球根で増えます。

 そして今回の観察を行う前は、無意識に球根が肥大して分球すると考えていました。

 しかし、スコップでヒガンバナの球根を掘り上げて観察すると、その発想は見事に覆されました。

 前の記事にも掲げましたが、ヒガンバナのコロニーAで計測したグラフを見ると、球根径は最小5.4㎜から最大43.4㎜まで、ほぼ直線状に分布します。

 大小の球根が均等に存在する現象は、球根が大きさと無関係に分球していることを予測させます。

ヒガンバナ球根 A群径別分布
 
 以下の写真は、今回実際に観察したヒガンバナが分球する様子ですが、ヒガンバナの球根はその大きさとは無関係に、2ないし3球に分球する様子が分かります。

 左下の写真の球根の小さい方は、平均径が4.4㎜でした。

 更にもう一つの特徴として、右下写真のように、ヒガンバナ球根は必ず左右に分球し、その方向が乱れることはありません。

E扁平個体-044-2分球 B扁平個体062-3分球001
   
 これらの現象を理解する為に球根内部を観察しよう思い、球根を入手して内部構造を観るつもりでしたが、それをする前にネット検索をすると、以下の論文がヒットしました。

 園芸学会雑誌 (J.Japan.Soc.Hort.Sci.)45(4):389-396.1977. 
 ヒガンバナ科(Aynaryllidaceae)の 球根植物の生育開花習性に関する研究(第1報)
  森 源治郎 ・坂西 義洋 (大阪府立大学農学部)

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/45/4/45_4_389/_pdf

 以下が上記論文に記されていたヒガンバナ(L.radiata)の内部構造の説明図です。

L.radiataの球根図、仮軸分枝システム(A)と横断面(B)
ヒガンバナの分枝システムと横断面図

 少し分かり難いので、図を色付けしてみました。

 初めに、仮軸分枝システムを説明します。

  ※仮軸分枝=茎や枝の先端に花ができて成長が止まった場合など、
   やや下側に新たに成長する枝が生じる型

 以下の図はヒガンバナ球根一個の組織模式図です。

 ヒガンバナの球根内の一番古い茎軸が「Ⅰ」です。その先端に花組織ができて茎の成長が止まります。

 その茎の葉腋から茎軸「Ⅱ」が分枝し、更に茎軸「Ⅱ」の先端に花組織ができて、茎軸「Ⅱ」の成長が止まります。

 更に、茎軸「Ⅱ」から茎軸「Ⅲ-1」が分枝し、上記同様の現象が繰り返されます。


 一方ヒガンバナは、下図の濃緑色、薄緑色で示す葉にデンプンなどの養分を蓄えます。

 その葉がタマデギ様の構造となって、栄養貯蔵器官として「Ⅱ」と「Ⅲ」の茎の周囲を同心円状に取り囲みます。
ヒガンバナ仮軸分枝システム

ヒガンバナ球根横断面図
 
 これら分枝は年に一回しか行われないので、3年に亘って形成された器官が一つの球根内に存在していることになります。

 但し3年前に形成された「Ⅰ」は、器官全体を包む鱗葉だけが残り、他の組織は貯蔵養分を失って褐色の膜状外皮となっているか、または消失しています。

 ヒガンバナの花となる器官の分化は4月下旬ごろに始まり、この時期に葉腋から次の茎が分枝し、子球も同時期に分枝します。
 ヒガンバナ花芽形成
 このような子球の分枝は、球根(鱗葉)に蓄えられた栄養分の多寡とは無関係に行われます。

 これが、上に示した1㎝以下の球根が分球するように、ヒガンバナには「球根が肥大して分球する」の常識が当てはまらない理由です。

 殆どの人が「球根は大きくなると子球を作る」と思っている筈です。

 ヒガンバナの常識を覆えす生態に驚かされるとともに、観察の醍醐味を実感しました。

 「Ⅱ」の茎の先端の◍が花となる器官です。その下の二つ目の葉の腋に次の「Ⅲ-1」茎が形成され、その下の葉の腋に子球が分枝し(Ⅲ-2)、すみやかに肥大して、旺盛な場合は内生子球として発達します。

 茎に生じた葉が、茎全周を筒状に取り囲み養分が貯蔵されることは上に記した通りですが、ヒガンバナの場合、4~5枚の葉が(茎から葉の出る位置が)茎の周囲を一周する毎に2枚付く、1/2互生葉序です。

 植物の枝は葉腋に付き、子球も葉腋に付きますので、子球が二つ付く場合は茎に左右対称に現れます。

 なので、球根(鱗茎)が3分割するときは、以下の写真のような形になります。

 この現象こそ、前のブログに記した「3分割した球根の全てが、一列に並ぶように分球する特徴」そのものです。
B扁平個体062-3分球001
 以上の通り、筆者が観察したヒガンバナの特徴的な形態や現象は、森・坂西の論文に記された仮軸分枝システムや内部構造によって矛盾なく説明できることが分りました。

 尚、森・坂西の論文には、シロバナヒガンバナ、ショウキラン、キツネノカミソリ、ナツヅイセン、タヌキノカミソリなども同様に分球すると記載されています。


  小石川植物園の調査許可を得て、ヒガンバナの球根(鱗茎)の形態を観察し球根径を計測しました。

 筆者は、定年退職時まで植物学とは全く無縁に過ごしましたので、植物の根茎を触り見るのは、小学生の時にチューリップを植えた時以来かもしれません。

 前回までのブログに記したように、ヒガンバナは主に9月中下旬ごろに花を咲かせますが、その開花時期は年によって9月上旬から下旬に及び、2020年の今年は10月上旬にずれ込みました。

 今回の調査前に、気温や日射量などが開花に及ぼす影響を検討しましたが、そのようなファクターのみでは説明が付かない現象が数多く見られたことは前回のブログに記した通りです。

 また、ヒガンバナは開花直前まで球根で夏を過ごしますので、ヒガンバナの開花システムを考える際に、球根の形態や生態を把握すべきなのは言うまでもありません。

 特に、球根の大きさや成熟度が開花に強く影響している可能性がありますので、花茎を有する球根径と他球根径を比較しようと考えました。

 プレ観察で、植物園正門横の、イチョウの下に育つヒガンバナと、その奥の小高い場所に育つヒガンバナの開花時期がズレましたので、最初にイチョウ周辺のコロニーAから調査を開始しました。
計測個体群A002 計測個体群A003
 スコップでコロニーAの全てのヒガンバナを掘り起こすと、球根が地中に4~5層ほども積み重なる状況が見えてきました。
計測個体群A023 計測個体群A027   
 この状況を目にするまで、ヒガンバナは秋に葉を出し、春に葉を枯らすまで、球根に栄養を蓄え続け、その後に休眠するサイクルを繰り返しますので、ヒガンバナ球根のイメージは、凡そ以下の写真のような大きさのグループに分かれるだろうと考えていました。
 ヒガンバナ球根の大きさ分布
 また、無意識に球根の形状は球形と思い込んでいましたが、左下写真のように、基部が結合した二つの球根を分離すると、その一つは、クリの実の形にも似た半球形(扁平形)だったのです。

 球根は最大径を計測する予定でしたが、慌てて、目視で球形と扁平形の2グルーに分け、球形は最大径を、扁平形は長短の幅を測り、その平均値を算出することにしました。
球形006-2分球 扁平個体001   
 そのように計測した球形球根110個体、扁平(半球形)球根78個体を合算し、小さい個体から順に並べグラフ化しました。

 先に述べたように、球根径は幾つかのグループに集約すると予測していたのですが、188個体の球根径値は、ほぼ直線状に並びました。(花茎株のみにデータを付記)
ヒガンバナ球根 A群径別分布 
 コロニーAを観察し、188個体中で花茎を有する株は7個(3.7%)でしたが、後日測定した全14個体の小規模コロニーGでは、8個体(57%)が花茎を有しました。
G100406-007
コロニーGの全ての個体

ヒガンバナG群 球根径別分布
コロニーGの球根径分布(花茎株にデータ付記)

 コロニーAのように、幾層にも球根が積み重なる状況では、球根の密集過多による、栄養の奪い合いなどが花茎成立に影響している可能性があります。
 
 更に、花茎成立に影響したであろうファクターとして、密集するコロニーAでは、地温に対する感受性が低下している可能性があります。

 豊富にデンプンを蓄えた球根が密集するコロニーAの写真を見ていると、各球根が地温変化に対し、敏感に反応できたとは思えません。

 小さな球根が密に地表を覆うコロニーAでは、コロニー全体が保温庫状態となっている可能性があります。
 前回のブログで紹介した、隣り合うヒガンバナ個体の開花時期に差が生じた原因として、各々の球根の温度環境が異なっていた可能性が推測されます。

 球根がデンプン糊のオーバーコートを着たような状態であれば、9月になって気温と地温が低下し始めても、コロニーの深部に位置する球根は、その変化に対応しきれなかった可能性があります。

 ヒガンバナが、隣り合う個体同士で開花時期にズレが生じたとしても、コロニーAのような環境下であれば、大気や土壌の温度変化が個々の球根に及ぶ程度の差で、開花のタイミングがズレることの説明がつくと考えます。

 そして更に、コロニーAの観察で驚いたのは、分球が、小さな個体にも生じていたことです。
扁平個体010-2分球003 扁平個体011
 以下の写真は、右上球根の長短径の測定値ですが、長径が9.1㎜、短径は7.4㎜という小ささでした。

 この状況を、球根は肥大して分球するという常識的発想で理解することはできません。 
扁平個体011a 扁平個体011b
 更に、3分割する球根も目にしましたが、3分割した球根全てが、一列に並ぶように分かれる特徴を示しました。
扁平個体033群 
 これらの特徴を理解する為に、「ヒガンバナ球根 組織構造」でネット検索すると、ヒガンバナの内部構造を説明する論文がヒットしました。

 次回はその論文を引用しながら、観察結果を紹介したいと思います。



 日陰と日向でヒガンバナの開花日に差があることを前回のブログに記しました。

 ところで、ヒガンバナには種ができません。

 ごく稀に種ができることもあるようですが、その種を蒔いても、殆ど発芽することはありません。

 というのも、もともとヒガンバナは中国が原産で、奈良時代か平安時代に日本に移入されたであろうヒガンバナは全て三倍体だったのです。

 三倍体の植物は染色体が3倍なので、3は2で割ることができません。

 一般的な二倍体の植物が、遺伝子を花粉(♂)と胚珠(♀)に半分ずつ分けて(減数分裂)、受粉して親と同じ数の子孫を作るというシステムの有性生殖に、ヒガンバナでは滞りが生じます。

 3倍体のヒガンバナは、まともな有性生殖ができない状態で花を咲かせているのです。

 種ができないヒガンバナは球根で増えますから、異なる個体の染色体が混じり合うことはないので、全てのヒガンバナは、親と同じ遺伝子を持つクローンなのです。

 桜のソメイヨシノも全てが同一の遺伝子を持つクローンです。

 ですから、気温の変化に対し、全てのソメイヨシノが同じ反応を示すことで、開花日を予測する桜前線が描けるます。

小石川植物園D130406-18032403
小石川植物園 一斉に咲きそろうソメイヨシノ

 ソメイヨシノと同様、同じ遺伝子を持つと考えられるヒガンバナですから、先のブログに記したように、8月の積算気温によって、あるいは日陰や日向の日射量の差によって生じる地温変動を把握すれば、開花日を予測できるようになるかもしれません。

 小石川植物園で写した下の写真のように、手前の日陰に育つヒガンバナは早目に花を咲かせ、既に花が萎え始めています。

 奥に見える、日の当たる場所のヒガンバナは、今まさに花の盛りを迎えていますので、この写真からも、日陰と日向で、ヒガンバナの開花日に差が生じていることが分かります。

ヒガンバナ-花期混在025

 しかしよく観ると、以下の写真のように、同じ日陰に育つヒガンバナも、開花日に差を認めます。

 特に右下写真では、花茎を高く伸ばした幾つかの株は花が萎えていますが、その下に花茎を伸ばす個体は、今まさに花の盛りを迎え、その差は、日陰と日向のヒガンバナの開花日の差と同程度に見えます。

ヒガンバナ-花期混在002 ヒガンバナ-花期混在018
   
 筆者は、同一の遺伝子を持つヒガンバナが、地熱変化の影響下で花を咲かせるだろうと考えましたが、右上写真のヒガンバナに「嘘をつけ、出直して来い」と言われた気がして、かなり凹みました。

 しかしすぐに気を取り直し、植物園でヒガンバナ観察し続けますと、日の経過とともにヒガンバナが葉を伸ばし始めたのです。

 そして、その様子から、花茎株の周囲に、無数の球根が存在することに気付きました。

ヒガンバナ葉の発生‗015s ヒガンバナ球根029

 その場で手に触れた木の枝を使い、花茎を伸ばした球根とその脇の球根を掘り上げると、花茎を伸ばした株よりも、他株のほうが明らかに小さいのです。

ヒガンバナ球根030
 
 その様子から、球根の大小や成熟度が開花日に影響するかもしれないなと考えました。

 (実は、もっと大胆なアイデアも浮かんだのですが、今は内緒にしておきます。)

 大きなお鍋の水がなかなか沸かないように、球根が大きくなればなるほど、地温の影響を受け難くなる可能性を考えました。

 そして、それが事実か否かを判断する為には、球根とその状況を詳細に観察する必要があります。

 そう思うと、地下に眠る球根を何としても観察してみたくなりました。

 しかし、小石川植物園のヒガンバナを勝手に掘る訳には行きません。

 更に小石川植物園は、個人調査で許可を得るのはかなり難しいらしいのですが、幸運なことに許可を頂くことができました

 そんなこんなで、一定数の球根を計測観察しましたので、次回のブログからその結果を紹介したいと思います。
 


 前回のブログで、東京、千葉、埼玉の各地でヒガンバナの開花状況を確認し、その全てで開花が遅れたことを記しました。

 浜離宮を訪ねた翌日の9月28日に東京都内、9月29日に埼玉県内、9月30日に千葉県内のヒガンバナを訪ねました。

 今年は9月22日が彼岸の中日、9月19日が彼岸の入り、9月25日が彼岸明けでしたから、上記で観察した日々は彼岸の中日よりも一週間以上遅かったことになります。

 そして、小石川植物園を含め全25か所のヒガンバナを訪ねましたが、各地でヒガンバナを見て、「ヒガンバナは日向と日陰で開花のタイミングがずれている」ことに気付きました。

 今回は、千葉県内の群落を例に、その様子をご紹介しようと思います。

 流山市の運河水辺公園を9月29日に訪ね、30日に市川市清河寺、松戸市祖光院、印西市結縁寺、八千代市村上緑地公園、柏市持法院、市原市熊野神社の6ヶ所を訪ねました。

 流山市の運河水辺公園は通常の年でも数週間開花が早いので、今回は説明を省略します。

 松戸市の祖光院は、京成線「常盤平駅」から徒歩10分ほどの場所にあり、住宅に囲まれた寺林をヒガンバナの群落が真っ赤に染めていました。

祖光院 松戸001

 そして寺林の縁の、よく陽の当たる参道脇では、幾本かのヒガンバナが花茎を伸ばし始めていました。

 陽の良く当たる場所では開花が遅れている様子が分かります。

祖光院 松戸002

 次に印西市の結縁寺を訪ねました。

 結縁寺は国道16号線沿いから車で7~8分の場所の、緩く起伏する丘に囲まれた明るい谷の中に佇んでいました。

 しかし、駐車場に車を止めて周囲を見回しても、ヒガンバナが殆ど視野に入りません。

 参道脇にヒガンバナが並んでいましたが、以下の写真のような状況で、やっと花茎を伸ばし始めたものが殆どでした。

結縁寺 印西市001

  駐車場横の、陽射しが強い場所では、蕾を開いたヒガンバナはほんの数輪しかありませんでした。

結縁寺 印西市002
 
 結縁寺を出て国道16号線を南に走り、八千代市の村上緑地公園を訪ねました。

 村上団地に隣接する村上緑地公園は、平成25年からヒガンバナの植栽が始まり、今では20万本を超える群生が育ちます。

村上緑地公園 八千代市001

 スギなどの針葉樹やカシなどの落葉樹が茂る林の中に、ヒガンバナの群生が赤い絨毯を敷き詰めたような見事な光景を見せていました。

 木々の葉が陽射しを遮る林床の群落は、満開状態と言える状況でした。

村上緑地公園 八千代市002 村上緑地公園 八千代市003
村上緑地公園の林の様子
   
 次に訪ねた柏市の持法院は、紅白のヒガンバナが山門の周囲に咲き揃っていました。

 山門の周囲には、大きな桜の木が葉影を落とします。

持法院001

 境内を見回すと、赤い花を掲げたヒガンバナと、蕾を開ききれないヒガンバナが、隣り合う状況を認めましたが、陽光と開花のタイミングの関係はそれ程明確ではありません。

持法院003 持法院002
   
 最後に、市原市の熊野神社を訪ねました。

 熊野神社は正暦3年(992)からの社歴を伝え、集落から離れた丘の上で、高く聳えるスギ並木に包まれた参道に沿って、ヒガンバナが見事な朱色の炎を連ねていました。

熊野神社 市原市001
 
 スギ木立が暗い影を落とす参道に、神宿る森へ人々を誘うように咲く満開のヒガンバナが、他で見たことのない幻想空間を作り上げていました。
   
 上記のように、10月30日の同一日、熊野神社のように、陽射しが常に遮られる場所のヒガンバナは満開でした。

 そして結縁寺のように、常に陽射しを浴びる場所に育つヒガンバナは蕾を開ききれていませんでした。



 各地でヒガンバナを見歩いた後、10月3日に私は再び小石川植物園を訪ねました。

 小石川植物園では、常にイチョウの葉影となる場所のヒガンバナは既に花弁が縮れ始めていました。

 しかしその後ろの、小高い場所のヒガンバナは、この日も赤い花を咲かせ続けています。

 オオムラサキツツジの並木が続くこの辺りは、正門裏手の大イチョウが影を落としません。

 つまり、小石川植物園に咲くヒガンバナで、全てのヒガンバナが開花する日数が同じであるなら、終日陽光が遮られる場所のヒガンバナは早く咲き始め、陽光が当たる場所のヒガンバナは開花が遅れたことになります。

ヒガンバナ-花期混在013 ヒガンバナ-花期混在009
   
 以下の写真はそれより遅い10月7日に同じ場所を写した写真ですが、木陰に育つヒガンバナは既に葉を伸ばし始めていました。

ヒガンバナ-花期混在026
 
 上記の観察と、前回記したブログ内容を考え合わせると、「ヒガンバナは、常に陽射しが遮られ、夏に地温が上がり難い場所では開花が早まり、日向の地熱が上がりやすい場所では開花が遅れる」との推測が成り立ちます。

 但し、常に陽が当たる場所は乾燥し、木陰は湿度が保たれるはずなので、これだけの観察で、ヒガンバナの開花が地温だけに左右されていると結論付ける訳にはいきません。

 また、ヒガンバナ球根の成熟度などが開花のタイミングに影響している可能性も考えられます。

 ヒガンバナの秘密を解き明かす為には、さらに多くの観察と検証が求められます。


  

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