好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2019年04月


 小石川植物園にサクラが咲き始め、アオキの雄花の開花に気付いたのは3月21日でした。

 そして5日後の3月26日に雌花を見て、翌27日にアオキ雄雌の開花状況を確認し、「アオキの雄株の開花は雌株より早い?」と題したブログを認めました。

 しかし、ブログを書き終えた後、無意識に前提条件としていた「アオキの雌雄株は同数存在する」は間違っているのではと思い直し、すぐにブログの修正を行いました。

 筆者は今でも、アオキの雄株は雌株よりも早く花を咲かせるだろうと考えますが、「客観的な比較データに基づく証拠を得るまで、うかつなことを言ってはならない」が筆者の家訓ですから、4月に入るとすぐに、アオキの雌雄株を確認する作業に着手しました。

 下のグラフは4月3日から4月19日にかけて、小石川植物園で確認したアオキの雌株と雄株の開花状況を示したものです。

 小石川植物園のアオキが育つエリアを網羅的に調査し、雌202株、雄409株、計611株でアオキの開花を認めました。

 グラフ右軸は夫々の観察日の、雌花の開花比(雌花/雌花+雄花)で、赤線はその推移です。

 以下のグラフは、右肩上がりの傾向を示すように見えます。

 つまり、日が経つほどに雌花の比率が高まるように見えますので、「雄花の開花は雌花より早い」 と言えるかもしれません。

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  グラフ①

 雌花開花比と観察日の散布図を作成すると、2=0.0718が得られました。

 相関係数は2.68となり、「相関があるとは言えない」結果となりました。

 つまり、このデータからは、アオキの雄花は雌花よりも開花が早いとは言えません。

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グラフ②

 しかし、グラフ①は、常緑樹下や落葉樹下など、光環境が異なる場所で観察したものの集計です。

 そこで、光環境条件を考慮したエリア毎に、夫々の雌雄株数を集計し直してみました。

 今回の解析は開花状況と無関係ですから、サンプル数を増やす為に、果実や花茎の形状等で雌雄を判別した、雌230株、雄423株、計653株のデータを用いました。

     ♀    ♂  ♀+♂
♀比率
B 9 21 30 30.0%
D6-8 75 75 150 50.0%
E7&8 26 43 69 37.7%
F6&7 15 18 33 45.5%
F11&12 29 56 85 34.1%
E&F13 41 92 133 30.8%
F14地区 16 33 49 32.7%
全地区 230 423 653 35.2%

 D6-8地区の雌株比50.0%が目立ちます。

 そこで、♀+♂数が多いD6-8地区とE&F13地区間でのχ2検定を行うことにしました。

 D6-8地区はスダジイやシラカシなどの常緑樹が繁茂する地区で、年間を通して林床に光が十分に届かず、夏期も林床に草が茂るようなことはありません。

 アオキはそのような場所に比較的疎らに生育しています。

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 一方、E&F13地区は西向きの斜面地で、落葉樹のイヌシデやエノキなどが生育し、隣接する西側はチャンチンモドキやコーカサスサワグルミの落葉高木が聳えますので、冬期の日当りは良好で、林床にアオキやヤブツバキの幼樹が数多く育ちます。

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 今回アオキの雌雄を確認して記録する際も、D6-8地区は「小石川植物園植物配置図」の図をそのまま用いましたが、アオキの生育密度が高いE&F13地区は、188%拡大図を新たに作成せざるを得ませんでした。

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 D6-8地区          E&F13地区
  
 以上のような状況と、光環境の違いから、D6-8地区とE&F13地区に生じた雌アオキの比率差は、受光量に因るだろうの仮説をたて、 χ2検定を行いました。

 エクセルで、実測値に対応する理論値を求め、実測値と理論値間でCHISQ.TESTを行うと、p値=0.00106が得られ、有意水準1%で、両群間に差があることが確認できました。

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 更に、E&F13地区と光環境が同一のF14地区とD6-8地区間でχ2検定を行うと、p値=0.03433が得られ、有意水準5%で、両群間に差があることが確認できました。

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 E&F13地区とF14地区の有意水準差は、F14地区のサンプル量が少ないことに因ると考えます。
 
 但し、両群間の差は受光量に因るとの仮説をたてましたが、E&F13地区のアオキ植栽密度が性差に影響する可能性や、D6-8地区では光が地表に届き難く、地温変動や地中水分量が比較地区と異なる可能性、落葉の堆積が厚く栄養状態が良い可能性など、光量以外の作用がアオキの性差に影響を及ぼす可能性を考慮する必要があります。

 ではありますが、上記解析で得られた結果から、E&F13地区とその他地区に認められる雌株比率の差は、偶然に生じたものでないことは明らかです。

 そして正直にネタ晴らしをすれば、筆者は定年退職後に植物観察を始めた素人で、上記検定法はネットで探した「Excelでχ2検定」などを俄か勉強したもので、検定手法が正しいかどうかの確信はありません。

 とは言っても、地区ごとのアオキ雌株比率に差を認めた観察内容は事実ですから、今回の調査観察によって、

 アオキ雌雄比に人為的な影響を及ぼすであろう作業(除草剤散布やアオキの剪定など)が行われていない状況下の小石川植物園で、

 1.アオキの雄株数は雌株数の約2倍

 2.アオキは環境条件に因って雌雄比が変化する

 を確認することができました。

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 今日は根津神社でツツジの花を楽しんできました。

 「内平外成(内平かに外成る)」 「地平天成(地平かに天成る)」時代だった平成の完結をツツジが華やかに祝ってくれているように思えました。

 平穏に過ごしてきた日々に感謝しながら、麗らかに咲き揃う花を愛でました。


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オオエゾムラサキ
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 キリシマツツジ
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 紅霧島                    日の出霧島

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八重霧島                本霧島



 クルメツツジ
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 御代の栄                  朱雀

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小城の踊唐子               常夏    

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太陽               筑紫紅

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唐船             日の出

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暮の雪                老の目覚

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麒麟



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クロフネツツジ         シャクナゲツツジ

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チョウセンヤマツツジ 淀川



ヒラドツツジ
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曙           大紫

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フジツツジ           ミヤマキリシマ



モチツツジ
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花車                 銀麾

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雪車                    青海波



ヤマツツジ
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リュウキュウツツジ
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リュウキュウツツジ                関寺



レンゲツツジ
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カバレンゲ            キレンゲ

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紅花



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ホリウチカンザキ

日本全国 ツツジの名所

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 小石川植物園の桜は散って、ツツジが咲きそろいました。

 今日は初夏を感じさせる一日でした。

 そして私はツツジを眺めながら、のんびりとした時間を過ごしました。

 小石川植物園には、元禄時代にブームとなった貴重なツツジ古品種などが集められています。

 14品種を数えるミツバツツジのコレクションも見事です。

 皆さまもツツジに彩られた庭を散策しながら、平成最後の春をくつろいでみては如何でしょうか。

 小石川植物園のつつじ園に咲くツツジを、以下にご紹介します。

  
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キリシマツツジ紅霧島        キリシマツツジ日の出霧島花
   
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キリシマツツジ白霧島      キリシマツツジ八重霧島
   
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オオヤマツツジ           オオヤマツツジ錦の司
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オオヤマツツジ山姥         オオヤマツツジ紫鳳殿
   
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オオヤマツツジ紫麾           オオヤマツツジ若紫
   
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オオヤマツツジ白滝             オオヤマツツジ白鳳殿

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オオヤマツツジ飛鳥川

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モチツツジ                     モチツツジ花車

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モチツツジ銀麾                    モチツツジ四手車
 
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モチツツジ手牡丹             モチツツジ青海波

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キシツツジ                    リュウキュウツツジ藤万葉
 
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リュウキュウツツジ大琉球      リュウキュウツツジ 京鹿の子

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リュウキュウツツジ白雪      リュウキュウツツジ南京紫

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リュウキュウツツジ薄葉   リュウキュウツツジ白琉球

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エゾヤマツツジ                   ヤマツツジ篝火

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アシタカツツジ             サタツツジ

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フジツツジ                       シロバナフジツツジ

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ミカワツツジ                       シカヨウツツジ 

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ミツバツツジ                     アワノミツバツツジ

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キヨスミミツバツツジ             サイゴクミツバツツジ

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シロバナコバノミツバツツジ                タカクマミツバツツジ

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トウゴクミツバツツジ            ハヤトミツバツツジ

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ユキグニミツバツツジ               ジングウツツジ     

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  ケラマツツジ                       ケラマツツジ采

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アマミセイシカ 

日本全国 ツツジの名所

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 昨年の2018年4月11日に記した

 で観察した対生葉序の木が、今年も元気に葉を茂らせました。

 そして今回、花芽の形などからこの木は、スイカズラ科のハナヒョウタンボクであろうと推測しました。

 (ページを改めて、ハナヒョウタンボクの特徴を説明する予定です。)

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2019年4月16日

 このハナヒョウタンボクは、上記ブログに記したように、2017年秋に全ての枝が伐採されましたが、去年の春には、切り株からヒコバエが伸び始め、その後驚異的なスピードで枝が伸びて葉を茂らせました。


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2017年11月26日         2018年3月27日

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2018年10月6日

 幸いなことに、昨年秋には伐採を免れ、そのままの姿で葉を落とし春を迎えたのです。
 (もしかすると、植物園の人がこのブロブを見て、伐採を控えてくれたのかもしれませんが、だとすれば感謝感謝です。)

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2019年2月11日

 冬の寒さも和らぎ、3月になると、枝々に若緑色の葉が萌え始め、後は一気呵成にあれよあれよという間の出来事でした。

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2019年3月12日         2019年3月27日

 4月になって木を観察すると、昨年伸びたヒコバエの表皮は褐色に変わり、その枝々から若緑色の新枝が勢いよく伸び上がっていました。

 そして気づいたのは、昨年と違って葉と枝の様子が「しごくまとも」なのです。

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2019年4月12日

 下の写真は去年5月22日の樹形ですが、個々の葉は大きく、多くの枝に三輪生葉序や四輪生葉序が出現し、それらの枝には不思議な葉形の葉を認めました。

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 そこで昨日の4月16日、このハナヒョウタンボクの葉と枝を再確認しました。

 2017年に伐採された切り株から25本のヒコバエが伸び出ていました。

 夫々の枝に、昨年伸びて枯れた側枝が残されていました。

 同じ節に3本の側枝があれば、この枝は三輪生だったことになります。

 そして、25本の枝から新たに伸び出た側枝数と、その新しい側枝の葉序を確認しました。

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 結果を以下に示します。

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 昨年伸びた25本のヒコバエは、対生葉序11本、三輪生13本、四輪生1本で、輪生葉序は全体の56%でした。

 そのヒコバエから今春伸びた側枝は237本で、その枝に発現した三輪生葉序は3本、残りの234本は対生葉序で、輪生葉序発現率は1.3%でした。

 以上のことから、

 本来対生葉序であるはずのハナヒョウタンボクは、木自体の生存が脅かされる強剪定を受け、急速に枝を伸ばさざるを得ない状況下に置かれ、枝を伸ばすホルモン活性が異常亢進し、対生葉序を三輪生葉序や四輪生葉序に変化させたであろうと考えます。

 このハナヒョウタンボクは今年も、通常以上にホルモン活性が亢進している為、ハナヒョウタンボクとしては極めて稀な三輪生葉序を幾つかの枝に発現しますが、昨年と比べその頻度は明らかに減少しました。

 強剪定を受けた樹木などに於いては、樹勢回復を図り、枝の伸長を促すオーキシン活性が大きく亢進するはずです。

 そのことが、対生葉序から輪生葉序への変化をもたらす主要因であろうと考えます。

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  オオイヌノフグリが、ライトブルーの星を草地に散りばめていました。

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 あたたかな陽射しを背中に感じて空を見上げると、視界を遮るイヌシデの枝に花が萌えていました。

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 今年もまたイヌシデの花に巡り合えた、ほのぼのとした喜びが胸に広がります。
 
 そして隣のイヌシデの木にも花姿を認めました。

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 しかし、隣り合う2本のイヌシデの花色が微妙に異なります。

 最初に見たイヌシデの花は、からし色に一滴の紅を添えた色合い、隣のイヌシデは若みどりに薄くマヨネーズをまぶしたような色合いです。

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 ああそうなんだ、イヌシデも木によって花色に違いがあるんだと気づかされ、背中で感じるお日様の暖かさが、胸の中へ染み渡るような嬉しさを覚えました。

 それにしても、この2本のイヌシデの花色の違いは、花のどこが違うのだろうか?の疑問が生じてきました。

 そこで、イヌシデの下を通るたびに地面を眺め、花が散る日を待ちました。

 数日後になって、2本のイヌシデの下に散り落ちた花を見つけ、いつも持ち歩くプラスチック製ファイルの上に並べてみると、
   
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 どうやら、色の違いはイヌシデの雄花の蕊を包む、爪にマニュキュアを塗ったような部分の大小が、花色に違いを生じさせることが分かりました。

 しかし、マニュキュアを塗った爪のように見えるものは何でしょう?

 そこで、花軸に連なる雄花の一つを切り離してみました。

 とは言っても筆者はかなり老眼ですから、手持ちカメラで接写した画像をPCで拡大する作業を経て分ったのは、爪形のものは苞だったのです。

 イヌシデの雄花は、5㎝程の花軸に複数の雄花を並べますが、個々の雄花は、一個の苞で包まれ、先端に葯を付けた7~8本(正確に数えたわけではありません)の雄蕊から成ることが分りました。

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 更に、毛のような、もじゃもじゃしたものが見えていますが、これはいったい何でしょうか。

 毛が、どの位置に付くのか判然としないので、葯を花から切り離しました。

 すると、切り離した葯の片側にだけ毛が密集しています。

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 私はこのような葯を初めて目にしますが、この毛はいったいどんな機能を担っているのでしょう?

 実は、葯を切り離す作業をしていると、ピンセットで葯にふれるたびに、プラスチックファイルの上で、葯は5㎝程の高さに飛び跳ねるのです。

 しかも、ファイル上で葯は、相互に程度な距離を保ち、ピンセットで集めても一か所にまとまることはありませんでした。

 多分この現象は、静電気によるものだろうと考えました。

 葯に付く毛は、静電気を集め、周囲の葯と反発し合う機能を帯びているのではないかと、推測しました。

 もしその考えが正しいのであれば、苞に囲まれた葯は苞の中で、相互に反発しあうことで、葯と葯との間に隙間が生じ、花粉が飛散しやすくしているのでしょう。

 そのような目で、もう一度苞を見直してみると、苞が作る曲線は、風が葯の周囲に渦巻くための構造のように見えます。

 なんと合理的で巧な造形でしょうか。

 あまりにも素敵すぎて、ほれぼれしてしまいました。

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 ということで今回は、イヌシデの花色に気付き、雄花の構造の秘密を知ることになったお話でした。

 実は筆者は、ハンノキも同様に、木によって花色が異なることを知っています。

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 ハンノキには、どんな秘密が隠されているのでしょうか? 

 サクラ咲く春になったばかりだと言うのに、筆者の頭の中は既に、ハンノキ咲く季節を待ちわびる思いが溢れています。

 さて、そろそろ今日も昼が近づきました。

 今日もまたこれから、小石川植物園へ出かけることにしましょう。

 今日もまた植物園で、何か新しい出来事に巡り会える期待が胸に膨らんできました。

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