2018年の10月も明日で終わり、明後日からは11月を迎え、秋は更に深まってゆきます
そんな今日この頃ですが、筆者には今月中に書き記しておきたい現象があります。
それは、10月1日の夜半から朝にかけて、関東に暴風をもたらした台風24号による塩害です。
筆者のホームグラウンドとする小石川植物園では、台風24号で数多くの木々が倒れ、入園者の安全確保の為に、数日の休園を余儀なくされました。
再開された翌日、園を訪ねて目にした光景は以前のブログで紹介しましたが、それ以外にも、おや?と思わせる変化を感じて、カメラのシャッターを押しました。
写真では僅かな変化ですが、肉眼では明らかに違和感を覚える光景でした。
例えば、正門を入ってすぐのイチョウの頂きで、左側の葉だけが黄色く変色していました。
最初は、これが塩害によるものとは考えませんでした。
しかし、一週間を過ぎた頃、新聞などに
「千葉県は強風と塩害で、大根やキャベツなどの被害は14億6千万円、神奈川県はダイコンやキャベツの変色と農業施設被害を合わせ5億円、茨木県はネギやハクサイなどで6億5百万円の被害」
などと報じられたことで、
小石川植物園の木々の葉も塩害による変化だろうと気づきました。
メタセコイアの葉の黄変が塩害によるものであることを確認する為に、過去の写真と見比べてみました。
左が今回のメタセコイア、右が昨年11月26日のメタセコイアです。
左下写真では、風が当たったと思われる上部が黄変していますが、右下写真では下部の葉から黄葉が始まっています。
しかも本来の黄葉の季節とは2か月程の差を認めます。
この数年来、四季を通じて小石川植物園を訪ねていますが、小石川植物園で海を感じたことは一度もありませんでした。
多分、小石川植物園から直近の東京湾までの直線距離は10km以上あるはずです。
それ程の距離を潮風が吹き抜けたことに驚かされました。
そして、それほどの距離を運ばれ、塩分が希釈された一瞬の風によって、葉が黄変したことにも驚かされました。
台風は時速50kmほどで通過したはずで、強風が吹いた時間も1~2時間だったはずです。
その程度の直接的な塩分(塩化ナトリウム)との接触で、葉が黄変したようです。
塩化ナトリウムといえば、酸やアルカリの様に化学作用を起こさない、動物には無害に近いとも思える物質です。
塩化ナトリウムは葉に付着し、どんな作用を葉に及ぼしたのでしょうか?
多分それは、浸透圧変化によって、植物細胞に水分異常を生じさせたのでしょうが、カリウムイオン代謝に影響を与えた可能性も考えられます。
黄変は、葉緑体が破壊されたと理解するだけで良いのでしょうか。
どんな植物の葉が塩害を受けやすいのか、調べてみました。
カツラが葉を落としていました。
ケヤキが、風に当たる方向の葉を黄変させ、反対側は緑を保っていました。
チャンチンモドキが風の当たる上部の葉を黄変させ、その数日後に葉を落としました。
モミジバスズカケノキも、風が当たる側の葉に損傷を受けた様子を見せています。
園内の常緑樹の、松や椿などに変化は見られませんでした。
それら樹種では葉のクチクラ層が発達しています。
これら現象は全て、塩化ナトリウムが根から吸収された為ではなく、直接的な接触によるものです。
そうであるのなら、上記樹種は海岸に近い場所での生育が難いのでしょうか。
そういえば今まで、花の旅で日本全国に見てきたカツラの巨木は、全てが潮風とは無縁な場所に育ちました。
そしてもう一つ、風媒花の花粉は風によって運ばれます。
チャンチンモドキは不明ですが、今回潮風に葉を黄変させた樹種は全て風媒花であることも、「樹形が風を受けやすい」などの関係性があるのかもしれません。
上記のような樹種の分布と繁殖に、季節風の向きは関わりがあるか否か。
等々、?マークが次々と頭をかすめます。
それにつけても、今回も非常に印象的な、好奇心を刺激する現象を見せてもらいました。