好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2017年04月


 謹啓 春暖の候 皆様におかれましては、ますますご清祥にお過ごしのこととお喜び申し上げます。

 さて、百年ほどの昔、人々は山に残る雪が白馬の姿になるのを待って田を鋤き始めました。

 太陽や風や雨の移ろいに生活を委ねていた人々は、一年を24等分した二十四節気を暦に暮らしていました。

 更には、二十四節気を三つの候に分けた七十二候(しちじゅうにこう)によって人々は季節の移ろいを数えました。

 今の季節は二十四節気の穀雨に当たり、4月30日の今頃は、七十二候で「牡丹華(ぼたんはなさく)」と称します。

 そして驚くべきことに、21世紀の今でも、大都会の植物園では七十二候にそって花が咲き、鳥が飛び、虫が鳴いています。

 4月26日、小石川植物園の標本園では牡丹が鮮やかな紅の花を咲かせました。

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 けれども、都会の植物園での「牡丹華(ぼたんはなさく)」の候は、紅色よりも、喜びにみち溢れた陽光に映える白花の季節なのです。

 ハンカチノキが人々の視線を浴びていました。

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 白い花が枝に揺れて、新緑のハーモニーを奏でています。

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 青い空は青く、白い花の美しさを際立たせます。

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 ハンカチノキの傍らで、爽やかな白いオオカナメモチ、しっとりと白いガクウツギに人々が目を和ませています。

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 明るい新緑の下に続く森の道を辿れば、オオアマナの花群れが出迎えてくれます。

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 空から舞い降りた、オオアマナの星屑のような白い六花が降り積もります。

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 オオアマナの先で、トキワマンサクが青い空から滴り落ちながら、花の清水を演じています。

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 光の個性が、白花に光と陰の変化をもたらします。

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 柔らかな光の中、あのツクシカイドウの気品ある白花が、ほのか風に揺らいでいます。

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 並び咲くサンザシの白さも秀逸です。

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 森の奥から標本園に戻ると、白さ明るいナニワイバラに紅色のハマナスが寄り添います。

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 庭の片隅ではスズランが、やわらかな卯月の風に白い香を放っていました。

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 トウダイグサ科のチャボタイゲキが小石川植物園の各所で緑の葉を広げています。

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 今回着目したのは、チャボタイゲキの螺旋葉序の最後の葉と輪生葉序の葉が置かれた位置です。

 今まで観察してきた全ての植物に於いて、「枝の上下(後先)に連続する節に葉を重ねない」という共通性が認められます。

 十字対生では、上下に連続する節に付く葉は90度ずつ位置がずれますし、三輪生葉序では、上下に連続する節に付く葉は60度ずつ位置がずれます。

 そこで今回、チャボタイゲキ主茎の螺旋葉序と主茎端の三輪生葉序間に同様の現象が認められるかを検証してみました。

 以下に、チャボタイゲキの二種類の葉序の葉の配置を見た画像を示します。

 この時期、螺旋葉序の葉腋から側枝が出ますので、それを目安にすると判断が容易です。

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 確認した14株全てで、螺旋葉序の最後の葉の位置と主茎端に付く三輪生葉序の葉の位置は重なりません。

 以上のことから、チャボタイゲキのような、常態として螺旋葉序と輪生葉序を備える植物にあっても、「枝の上下(後先)に連続する節に葉を重ねない」という現象が確認できました。


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 チャボタイゲキはヨーロッパや北アフリカ原産のトウダイグサ科の一年生草本で、世界中の温帯や亜熱帯気候の国に広く帰化しています。

 チャボタイゲキは地上に一本の主茎を立ち上げ、その主茎へ1~2㎝×1㎝ 程の葉を螺旋葉序に付けます。

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 5~30㎝ぐらいに主茎を伸ばした先に、突然三輪生葉序を付けて主茎の伸長は止まり、その先へ3本の側枝を伸ばします。
 
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 このようなチャボタイゲキの特異な形態は以前のブログで説明しましたので、詳細はそちらをご覧下さい。

 今回着目したのは主茎の螺旋葉序とその主茎の先の三輪生葉序です。

 最初に19株の螺旋葉序のパターンを確認し、次の結果を得ました。

2/5螺旋 9固体    3/8螺旋 10固体
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 次に、主茎先端が三輪生葉序の株と四輪生葉序の株で、主茎の螺旋葉序に違いが見られるかを確認しました。

 螺旋葉序の種類を確認した19株の中に、先のブログで四輪生を確認した株が5株含まれています。

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 それら四輪生葉序株の主茎に付く螺旋葉序のパターンは以下の通りでした、

  3/8螺旋 3固体、  2/5螺旋 2固体

 標本数が極めて少ないのですが、主茎の螺旋葉序のパターンに因って、輪生葉序が変化する(相関関係がある)印象はありませんでした。

 主茎の先の輪生葉序の変化が、主茎の螺旋葉序構築と連動している兆候は感じられません。

 主茎先端の輪生葉序の変化は、チャボタイゲキ葉序構築に於ける基本システムに変化が生じている訳でもなさそうです。

  数が少なく、この程度のことで結論めいたことは言えませんが、

 主茎先端部に限定した、偶発的なホルモンバランスの変化、ないしは外部微小環境の変化を受けた、体内組織のホルモン感受性変化のような要因を受けて三輪生と四輪生に変化した可能性が高いのだろうと思えます

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 一月ほど前にトウダイグサ科のチャボタイゲキが螺旋葉序、輪生葉序、対生葉序を常態として備えていることをご紹介しました。
 
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 チャボタイゲキは2~3㎡程のエリアに数多くの固体が育ちますので、葉序の観察にはもってこいです。

 そんなチャボタイゲキを眺めていると、本来は三輪生である筈の三輪生葉序が四輪生に変化している一株を見出しました。

 その隣に五輪生葉序の株も見えています。

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 筆者は、葉序進化の過程の中に対生葉序→輪生葉序の道筋があるだろうと考えます。

 しかし、対生葉序が三輪生に変化した事例は数多く観察してきましたが、キョウチクトウ以外で、三輪生がそれ以上の輪生葉序に変化した事例を確認したことがありません。

 初めて目にする三輪生から多輪生への変化です。

 早速、チャボタイゲキの輪生葉序にどの程度の変化が起きているかの確認を始めました。

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 小石川植物園のメタセコイアの林床に育つチャボタイゲキをチェックしながら、重複を避けるために、確認した株に連番を振ったスリットで標を付けてゆきます。

 表計算ソフト エクセルを使って作成したスリットの縦一列が46枚だったので、46個をワンセットとする3群、計138固体で輪生葉序を確認しました。

 以下はその結果です。

 138固体中8固体の輪生葉序に輪生数の増加が見られました。

 1~3群とも、四輪生、五輪生の発現率に統計学的な差はなさそうです。
 
 
四輪生
五輪生
 
1群
1
1
2
2群
3
1
4
3群
2
0
2
6
2
8

 以上のことから、チャボタイゲキの三輪生葉序は一定の頻度で四輪生や五輪生に変化することが分かりました。

 昨年、対生葉序のミソハギに生じた三輪生では数値的な検証は行っていませんが、今回のチャボタイゲキの三輪生からの四輪生、五輪生への発現頻度に有意の差はないように思えます。

 対生葉序から三輪生、そして更に四輪生、五輪生へと変化する要因や機序は同一のものである印象を得ました。
 
 近年、標本数を揃えやすいシロイズナズナが様々な研究に用いられ、目覚ましい成果を収めています。

 今後は一定数以上の標本が確保できる、草本に目を向けた検証を増やしてゆきたいと考えています。

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 小石川植物園の森でツクシカイドウが純白の花を咲かせています。

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 穢れなき花の白さに魅せられた人々は、花の周囲を巡りながら、満ち足りた思いに染まってゆきます。

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 時が進めた光の中で、白く輝き、陰ろう旋律を奏でながら、花は緑の風にたゆたいます。
 
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 一輪咲いたら白い花、五輪咲いても白い花

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 空から舞い下りてきた白い花は時の移ろいを止めて、森に至福のやすらぎをもたらします

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 幾十年も、幾百年も時を重ねながら咲き続けたツクシカイドウの木陰には、満たされた想いの春が静かにまどろんでいました
 
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 「筑紫海棠」

 ツクシカイドウはかって熊本や大分に分布していたバラ科の落葉樹ですが、日本の野生種は絶滅しました。

 小石川植物園では染井吉野が咲き散り終わる頃、木を白く染めて花を咲かせ、秋には赤いサクランボのような実で枝を飾ります。
   
 小石川植物園 過去の開花確認日 
  2013年4月11日、2015年4月19日、2016年4月15日、2017年4月20日

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撮影 2015年12月25日

 ツクシカイドウ Malus hupehensis は中国に自生し、欧米では庭木として植栽され、湖北カイドウの別名で呼ばれます

 ツクシカイドウは三倍体で、花の雄しべの葯に花粉はできません。

 しかし、不思議なことに授粉もせずに果実が成長し、果実中にできる種子には発芽能力が備わります。

 またツクシカイドウは、リンゴを枯死させるウイルスに対する感受性が高く、接ぎ木する樹がウイルスに罹患しているかの検査に活用されます。

 小石川植物園のニュートンのリンゴの木も、イギリスから移入したとき、ウイルスに感染していたことが知られています。

 もしかすると、その時の検査にツクシカイドウがひと肌脱いでいたかもしれません。

 日本のツクシカイドウの野生種は絶滅しましたが、熊本県美里町で民家の庭木としてみつかり、現在その実生苗が熊本県各所で栽培されています。

 植物園等でツクシカイドウを目にすることができるのは、小石川植物園、富山県立中央植物園、福岡市植物園、青森県りんご研究所などの限られた施設だけです。

 新しい出会いの季節、どなたかと一緒にそれら施設にツクシカイドウを訪ねられては如何でしょうかへ

 玄宗皇帝が楊貴妃を、「海棠の睡(ねむ)り、未だ足らず」と評した、海棠の清くも艶やかな姿を眺めれば、桜とは一味違った春暁の移ろいを楽しむことができるかもしれません。


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全国に花を訪ねる旅の記録 「花の旅


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