謹啓 春暖の候 皆様におかれましては、ますますご清祥にお過ごしのこととお喜び申し上げます。
さて、百年ほどの昔、人々は山に残る雪が白馬の姿になるのを待って田を鋤き始めました。
太陽や風や雨の移ろいに生活を委ねていた人々は、一年を24等分した二十四節気を暦に暮らしていました。
更には、二十四節気を三つの候に分けた七十二候(しちじゅうにこう)によって人々は季節の移ろいを数えました。
今の季節は二十四節気の穀雨に当たり、4月30日の今頃は、七十二候で「牡丹華(ぼたんはなさく)」と称します。
そして驚くべきことに、21世紀の今でも、大都会の植物園では七十二候にそって花が咲き、鳥が飛び、虫が鳴いています。
4月26日、小石川植物園の標本園では牡丹が鮮やかな紅の花を咲かせました。
けれども、都会の植物園での「牡丹華(ぼたんはなさく)」の候は、紅色よりも、喜びにみち溢れた陽光に映える白花の季節なのです。
ハンカチノキが人々の視線を浴びていました。
白い花が枝に揺れて、新緑のハーモニーを奏でています。
青い空は青く、白い花の美しさを際立たせます。
ハンカチノキの傍らで、爽やかな白いオオカナメモチ、しっとりと白いガクウツギに人々が目を和ませています。
明るい新緑の下に続く森の道を辿れば、オオアマナの花群れが出迎えてくれます。
空から舞い降りた、オオアマナの星屑のような白い六花が降り積もります。
オオアマナの先で、トキワマンサクが青い空から滴り落ちながら、花の清水を演じています。
光の個性が、白花に光と陰の変化をもたらします。
柔らかな光の中、あのツクシカイドウの気品ある白花が、ほのか風に揺らいでいます。
並び咲くサンザシの白さも秀逸です。
森の奥から標本園に戻ると、白さ明るいナニワイバラに紅色のハマナスが寄り添います。
庭の片隅ではスズランが、やわらかな卯月の風に白い香を放っていました。