9月中旬(11日~26日)の東京都心での日照時間が、12.8時間しかなく、平年の21%だったことが、「日照不足記録的」の表題で、今朝の新聞で報じられていました。


 私の小石川植物園通いは、もっぱら自転車利用ですから、雨が続くと、どうしても足が遠のきます。

 この「樹と木のお話」も、気が付けば、2ヶ月近くも記事を更新していない状況で、これも記録的かもしれません。

 2016年の初秋は、そんな風に、何時もと違う様子で始まりましたが、いつの間にか、朝晩になれば、心地よい風が、開け放った窓から、蟋蟀の鳴声を運んでくるようになりました。

 そんな中、昨日は久しぶりの青空の下、自転車のペダルをこいで、小石川植物園を訪ねました。

 精子発見のイチョウが、白い雲を浮かべた空に、ゆったりと枝を広げていました。


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 枝には、たわわに稔った、淡黄赤色の銀杏が見えています。

 心なしか、銀杏の実の重さで、枝が傾いでいるように見えます。

 木の低い枝に実が少なく、高い枝に多いのは、高い枝ほど花粉を運ぶ風に晒され易い為かもしれません。


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 精子発見のイチョウの木で、実の付き方を興味深く観察した後、プラタナスの大樹の繁る森を抜けて、日本庭園の雌イチョウの木へとやってきました。

 木の周囲は所狭しとばかりに、イチョウの実が地面に散り広がっています。

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 その散り落ちた実(タネ)の幾つかは、二つがセットになったツインでした。

 実はこれこそが、本来のイチョウの実(タネ)の稔り方なのだと考えています。


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  小石川植物園では、13本の雌のイチョウの木が育ちますが、この日本庭園にある木が、一番低い位置に枝を伸ばしています。

 この木が、最もイチョウの雌花や実の観察がし易いので、私は春から、継続的な観察を続けてきました。

 以前のブログで、イチョウは、雄と雌の木が異なり、雄の木には雄花が、雌の木には雌花が咲くことをご紹介していますが、イチョウの雌花は下の写真のような形です。



 葉の間から、二つの黄色いポッチを先端に付けた花柄が突き出ていますが、これがイチョウの雌花です。

 およそ花らしくない姿ですが、イチョウは裸子植物なので、花に花弁や萼や子房がなく、胚珠がむき出し(裸子)です。 

 そして、殆どのイチョウの雌花は、下の写真のように、二つの胚珠を先端に並べる構造となっています。


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 ものの本によれば、イチョウの雌花は受粉時期になると、胚珠の先端に、珠孔液と呼ばれる液体を分泌し、そこに花粉が付着して、花粉は胚珠の中へと取り込まれます。

 3ヶ月ほどもすると、胚珠の中に取り込まれた花粉から花粉管が伸び、その中に精子が作られ、その精子が卵細胞へと泳いで行って、受精が完了します。

 このことが、明治29年に世界で初めて、平瀬作五郎等が、種子植物に精子が存在することを、小石川植物園の「精子発見のイチョウの木」で発見した現象なのです。


 そのことを想像しながら、半年に亘って、実の外側から継続的に観察してきた結果が以下の写真です。

   5月上旬 受粉直後の(タネ)の様子
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   8月中旬 この頃に受精が完了したと思われます。
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    9月下旬 (タネ)の色が変化し始めました
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 しかし、全てがツインなわけではなく、下のようなシングルの形で、枝上に於いて成熟したものを1割程度の比率で確認しています。

 このようなものは、当初から胚珠が1個だったのか、あるいは、1個の胚珠のみが受粉し、受粉できなかった胚珠が、後に欠落したのか等々、幾つかの可能性が考えられます。

 そして、そのような疑問を解き明かす為の観察が、来年のテーマの一つになると思えます。

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 地上に落ちた実(タネ)が、殆どシングル形なのは、枝に育つ実(タネ)の比率を反映している訳ではない筈です。

 雌花の形から、イチョウの実(タネ)ツインで育つことが本来的なのだろうと考えます。

 新たな疑問として、イチョウの枝の位置の違いによる受粉頻度や程度の差、受粉ないし受精が実(タネ)の維持成熟に関与している可能性、成熟した実(タネ)の雌雄比は等しいか、地に落ちた実が示す極めて高い萌芽率の意味、等々、興味深い疑問が次から次へと湧いてきます。

 定年退職後の60の手習いではありますが、これからも無理をせずに、ゆったりとマイペースで、植物観察を続けて行きたいものです。


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