好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2016年07月


 小石川植物園の分類標本園の「アケボノスギ」の名札を付けたメタセコイア徒長枝の十字対生に葉のズレを見出しました。


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 そこで、もしやと思い、このメタセコイアの葉序を観察することにしました。

 するとすぐに、枝に狭義のコクサギ型葉序を見出したのです。


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 上の写真で①~③の3組の対生葉序が上下にズレます。

 赤、黄の葉腋から側枝が出ています。

 赤、黄の3枚の葉は側枝の葉ではありません。

 そして、黄と黄、赤と赤は枝の左右に二枚ずつ連続しています。

 これは、狭義のコクサギ型葉序そのものです。

 このメタセコイアは、このような狭義のコクサギ型葉序を数本の枝に発現させていました。

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 そして、以下の写真のような旋回葉序も確認することができました。

 下の写真で、①~④のペアの葉に、枝の上下へのズレが生じています。

 しかし今までの写真のように、枝の左右に葉が二枚ずつは並ばず、一見普通の互生葉序のように見えます。

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 これは旋回葉序Rotation phyllotaxy)といって、コクサギ型葉序と構造は全く同じものです。

 この葉序の構造を模型で示すと以下のようになります。

 断面が正方形の枝の十字対生を、手前の面の黄色い葉と、下面の緑色の葉を等間隔に右へ平行移動させた構造です。

 一般的な互生葉序と同じ葉の配置に見えます。

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 上に示した模型を、見る角度を変えると以下のようになり、枝の左右に葉が二枚ずつ並ぶ狭義のコクサギ型葉序が姿を現します。

 模型の枝の一面を黒白に塗ってあります。
 見る角度を、どのように変えたかご理解頂けると思います。

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 以上のことと、前回のブログ内容を併せ考えると、メタセコイアの旋回葉序は、ヨコグラノキやネコノチチ等と異なり、最初に側枝に付く葉が横腹側にあるが為に、狭義のコクサギ型葉序や互生葉序様の二種類の表現型を持つと判断します。


 そして以上のことは、筆者が「葉序進化のステップに関する考察」に記した、

 「葉序の進化は対生葉序からダイレクトに旋回葉序(コクサギ型葉序)へと移行した可能性

 をも示唆すると考えます。


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 小石川植物園の分類標本園に「アケボノスギ」の名札が付いた、一本のメタセコイアが植栽されています。 

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 観察に適した高さに数多くの葉を茂らせますので、前回の「羊頭狗肉」同様に、このメタセコイアで、十字対生分枝後の側枝で、最初に付く葉の位置が固定されているか否かを確認しました。

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 上の写真で、中央上から下へと伸びる本枝の対生葉序の葉の腋から、左右へ側枝が伸びます。

 その左分枝の最初の葉は、左分枝の横腹側()に付くことが確認できます。

 左分枝の最初の葉の葉枕を見れば、その状況は更に明確です。

 右分枝の最初の葉は少し捩れますので、写真では分かり難いのですが、葉枕は明らかに右分枝の横腹側にあります。

 このメタセコイアの40ヶ所で分枝後の最初の葉の位置を確認しましたが、その位置は全て横腹側でした。

 (:横腹側という言葉は造語で、筆者は側枝の向背軸と直交する側をそう呼びます。植物学での正式な語句があれば、ご指摘頂ければ幸いです。)

 このメタセコイアは、根元から二本の徒長枝が伸びていました。

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 通常、メタセコイアは横に伸びた枝しか葉を見ることができませんが、徒長枝では、垂直に伸びた枝に、十字対生の葉を観察することができます。

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 そこで、垂直に伸びる枝の分枝に、最初に付く葉の様子を観察しました。

 当然のように、垂直に伸びた徒長枝の、側枝に付く最初の葉は横腹側にあります。

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 さて、一枚前の写真の、垂直に伸びる枝の十字対生が、僅かにズレていることにお気づきでしょうか?

 次回は、このメタセコイアの十字対生の、葉のズレに関する話題をレポート致します。

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 昨年3月の「世界各地の十字対生の葉の配置」で筆者は、十字対生の分枝後の枝に、最初に付く葉の位置が固定されていると記し、その後5月に、「全ての十字対生が、そうとは限らない」と追加修正を行なっています。

 それから後、アジサイやニワトコで「それほど単純な話でもなさそう」と悩み、本年3月のハコベの観察では、固定されるものと、そうでないものがあることを想定し、観察数を増やしてゆきたいと記しました。


 観察を進めると予想以上に、植物毎に状況がバラバラで、統一した見解を得るまでには至っていませんが、少なくとも小石川植物園で観察した十字対生の草本類は全て、分枝後の枝に最初に付く葉の位置は横腹側()に固定されていました。

 何となく見えてきたような気もしますが、自分で自分を励ます為にも、この辺で途中経過をレポートしておきます。

 (注 横腹側:この様な言葉は無いかもしれませんが、筆者は、側枝の向背軸側と直交する枝の位置をそう呼んでいます。何方か、植物学として正式な語句があれば、教えて頂ければ幸いです。)

 ところで、当ブログは当初、木の観察を目的にスタートさせたのですが、だんだんと木だけを見ている訳にもいかなくなってきました。

 羊頭狗肉みたいで恐縮ですが、時折、草に関しても綴ってゆくことになりそうです。
 どうぞご了承下さい。

 各写真の赤○が側枝の最初の葉

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イヌホウズキ:ナス科   エゾミシハギ:ミソハギ科

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  カリガネソウ:クマツヅラ科   クサキョウチクトウ:ハナシノブ科

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クマツヅラ:クマツヅラ科    シモバシラ:シソ科  

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  ツルニチニチソウ:キョウチクトウ科  ハエドクソウ:ハエドクソウ科

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  ハッカ:シソ科    ハナハッカ:シソ科

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ヒメオドリコソウ:シソ科    フジテンニンソウ:シソ科

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ミソハギ:ミソハギ科   メハジキ:シソ科   


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 先日、小石川植物園の分類標本園で対生葉序のエゾミソハギが三輪生を見せていることに気付きました。

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 更に、その茎の下部を見ると、なんと螺旋葉序も見られます。

 この株は茎の途中までが螺旋葉序で、中ほどから上が三輪生となっています。

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 「葉序進化のステップに関する考察」で筆者は、ニンジンボクの同一株の異なる萌芽に、三輪生と螺旋葉序が発現する様子をレポートしましたが、今回のエゾミソハギは、同じ茎に三輪生と螺旋葉序が発現しています。

 ニンジンボクを想い出し、すぐに三輪生と螺旋葉序の茎の形を確認する作業に入りました。


 まずは三輪生です。

 ピンクの付箋を貼った葉を目印に、左右から茎を写した画像に各々三つの側面が写っていますので、茎が六角形であることが分かります。
 
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 次に、茎の下部の螺旋葉序を確認しました。

 左下の写真には、葉にピンクの付箋を貼った茎の側面以外に、二つの面が見えています。

 右下の写真も同様に、葉にピンクの付箋を貼った茎の側面以外に、二つの面が見えています。

 左右から見た各2の側面に付箋を貼った葉が付く面を足して、5つの側面を確認することができました。

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 エゾミソハギの茎を注意深く観察すると、五角形の茎の途中の葉のすぐ上から、螺旋葉序の中に新しい側面が広がり始め、茎は六角形へと変化してゆきます。

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 そして、六角形となった茎に、葉が一枚下にズレたような、変則的な三輪生が現れ、更にその上では三枚の葉が茎の一ヶ所に集約し、ほぼ完全な三輪生を見せていました。

 しかも、三輪生の葉腋から出る新しい側枝に付く葉は、ミソハギ本来の対生葉序そのものです。

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 『共通する植物ホルモンのシステムを基に、「茎の一節の中に何個の葉を置くか」の茎巾のキャパの大小で』

 と記しましたが、今回のエゾミソハギの現象を見ていると、茎巾のキャパと云うよりは、

 茎に葉を作る同一の、複数の植物ホルモンの作用量、あるいは作用時間の変化などで対生葉序、2/5螺旋葉序、三輪生葉序などが形成されてゆくのではないかと思えます。

 いずれにしても、今回のエゾミソハギの観察で、対生葉序、2/5螺旋葉序、三輪生葉序に限れば、「葉序の進化は対生葉序から各葉序へとダイレクトに変化した可能性が高い」との推測を、筆者は更に深めました。


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 2014年の秋、幾つかの十字対生に不等葉を見出し、筆者は次のように記しました

 「これらの十字対生の樹木に共通するのは、ウツギのように枝先を横向きに寝かせないことです。 
 今までの観察で、ウツギのような形態の樹種に不等葉は見出せていません。」

 筆者はそのとき、オーキシンが側枝に付く葉に不等葉をもたらす可能性を推測しています。

 また、数多くの樹種を観察した結果、ウツギのように枝を空に向けることなく、枝先を横向きに寝かせる樹種では、側枝でのオーキシン作用が弱く、それが為に不等葉を発現し難いだろうとも考えていました。

 しかしその後、メタセコイアが捩じれた枝に不等葉を発現させているのを確認し、ウツギが不等葉を発現しない現象は目測だけではなく、実際に計測確認しなければならないと考えました。

 そして今年も夏が巡り、ウツギの葉が出揃い、側枝の葉を実際に計測しましたので、その結果を以下にレポート致します。


 ウツギは側枝を伸ばす時、その側枝へ最初に付ける葉から、元枝に対して X 型配置となる状況を多くの枝で見かけます。
    
 今回はそのような枝で、不等葉性発現の有無を検証しました。

 比較的多くの葉を付けた3本の枝で、対生葉をセットで測定しました。

 方法はいつもの通り、側枝の十字対生の葉長を測り、測定値を記した付箋を葉に貼り、それをデジカメで記録し、結果を持ち帰りエクセルで検定しました。

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 計測した葉は、3本の枝の 18+19+16=53 対です。

 その中の4対は、虫食いの影響の可能性があると判断し、集計から除外しました。

 前回のブログ「アオキ型不等葉とメタセコイア型不等葉」に記した通り、不等葉には二つのパターンが想定されます。

 最初にアオキ型不等葉発現の有無を確認しました。

 下の写真のように、対象とした側枝に最初に付いた葉は、枝の真横(向軸側)でも、真上(横腹側)でもない位置にあります。

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 アオキ型不等葉は側枝の対生葉に一つ置きに現れますので、側枝の対生葉を、分枝直後から順に、枝先へと計測し、奇数番目と偶数番目にグループ分けし、夫々の対生葉長の平均値を求めました。

 以下がその結果です。

 褐色のスペースは虫食いの影響を考え、集計から除外した葉の測定値です。

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 以上のように、枝①の奇数番目の対生葉の平均値は84.2㎜と88.8㎜で僅かな差を認めますが、有意差はありませんでした。

 母数を増やすために、3本の枝で平均値の差が比較的大きい、奇数番目の葉を合算してT検定を行いましたが、p値は0.73となり有意差は認められませんでした。

 結論として、ウツギ側枝のX型配置対生葉に於いて、アオキ型不等葉の発現は認められませんでした。


 次にメタセコイア型不等葉の発現を検証しました。

 側枝のX型配置十字対生は下図のように、対生する奇数番目と偶数番目の左右の葉が交互に枝の上辺に配置されますので、奇数番目の対生葉で上から見て右葉が上辺とすれば、次の偶数番目の対生葉は左葉が上辺となります。

 それら上辺の葉と下辺の葉をグループ分けし、各々の平均値を求めました。

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 以下がその結果です。

 上記同様、褐色のスペースは虫食いで除外した葉の測定値です。
 
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 枝①で、二つのグループの葉長平均が84.9㎜と87.8㎜と、僅かな差を認めましたが、p値は0.61となり有意差は認められませんでした。

 詳しい説明は省きますが、X型配置を横から見た場合を想定しての検定も行いましたが、枝①でのp値は0.77でした。 

 結論として、ウツギ側枝のX型配置対生葉に於いて、メタセコイア型不等葉の発現は認められませんでした。


 以上のことから、2014年秋に記した、

 「今までの観察では、ウツギのような形態の樹種に不等葉は見出せていません」

 を実測値で再確認することができました。


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