好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2016年05月

 
 2016年も季節が進み、緑が濃くなってきました。

 小石川植物園の正門近くのイチョウ(F150501の根元に幾本かのひこばえが育ち、その枝の葉は螺旋葉序を見せています。
 
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 イチョウは最初に長枝が伸びて、その長枝に短枝が育ちますが、短枝に付く葉は、螺旋葉序が詰まった束生状です。
 
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 ですから、イチョウ螺旋葉序の観察は、長枝やひこばえで行います。
 
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 筆者は、葉の配置、枝との関係や葉序の進化を考えながら観察を行っています。
 
 イチョウのような裸子植物は、ジュラ紀後半の1憶4550万年頃、被子植物が現れる前に繁栄していたので、葉序の進化を考えながら、裸子植物と被子植物を観察すれば何かが見えてくるかもしれません。

 例えば、被子植物で観察した螺旋葉序の変化や不等葉性発現は裸子植物も同様か、何か差があるのか、などの観点で観察を行いました。

 新しく見えるものに、それほど期待しませんが、やってみることが大事です。

 筆者は以前アオキで観察した、側枝向背軸に基づく不等葉性は、針葉樹も同様であることを確認しています。

 今回のイチョウの螺旋葉序も、被子植物と差はないと予測しました。

 以前ヤマブキの螺旋葉序で、螺旋葉序の回転方向が左右等しく発現することを確認しましたが、裸子植物のイチョウはどうでしょうか。

 イチョウのひこばえで螺旋葉序を確認しながら、右回転は白色、左回転は赤色の付箋を付してゆきます。
 
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 しかし、困ったことに、小石川植物園内のイチョウだけでは、統計処理を行う為にヒコバエの数が足りません。

 そこで園外へ出て、千川通りのイチョウ並木のひこばえを追加観察しました。
 
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 結果
 
右回転
左回転
小石川園内のイチョウ
6
7
千川通りのイチョウ
23
25
29
32
 
 以前測定したヤマブキは、右回転 14 左回転 16 でした。
 
 同等の結果と判断できます。

 
 蛇足ですが、イチョウは葉形で雌雄を見分るられるという話があります。

 現状でネット検索すると「可能である」という記事が殆どです。

 非常に不思議に思うのですが、そんなことがあり得るでしょうか?

 皆さん、きちんと確認しておられるのでしょうか?
 
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 以前のブログで筆者は、アオキの不等葉性が観察された枝で、不等葉の発現と平行して、向軸側の側枝の生長が抑制される不等枝性が見られることを説明しました。


 このとき、向軸側の側枝の抑制は下記の写真の如く顕著ですから、誰もが一瞥すれば、異議を唱える人はいないはずです。

 ちなみに、このときの向軸側の分枝の長さは25㎜で、背軸側の分枝の長さは79㎜です。

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 筆者は、これらのアオキの不等葉性や不等枝性の観察に引き続いて、様々な樹種での観察を行ってきました。

 アオキの不等葉性の発現は、多分、オーキシンに起因するだろうと思われますが、一方、マサキやモクレイシの様に、側枝の向背軸側の十字対生に不等葉性が発現しないように見える樹種も散見されます。

 
 横向きに伸びた枝が、太陽光の方へ枝を曲げるのは、枝の地表側(背軸側)に濃度が高いオーキシンが、枝の地表側の細胞をより多く伸長させる為と説明されます。

 であれば、横向きに、地表と平行に伸びた枝が太陽光の方へ曲がらない植物など、ある筈もなく、上記のようなオーキシン作用が全ての植物に認められる筈です。

 つまり、全ての植物の向背軸側の葉に不等葉性が発現してしかるべきです。

 しかし、多くの植物を観察すると現実はそうではありません。

 なんでやねん! 話がおかしいやないか! どないなってんねん!  
 (何で憤慨したとき、関西弁を使うとリアリティが増すのだろう?)

 筆者はアオキに不等葉性を見出して以降、互生葉序裸子植物にも不等葉性が発現することを見出してきました。



 しかし、植物の側枝に於ける不等葉性の発現は気まぐれで、アジサイなどでは何度測定しても、不等葉性を発現する枝とそうでない枝が混在し、筆者は現在、それらを合理的に説明し得る可能性すら見えていません。

 そこで、もう一度、原点に戻り、一目瞭然のアオキの不等葉性とそれに付随する不等枝性を数値で確認してみることにしました。

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 新しい知見ではありませんが、次のステップへ進む時に何かの役に立つかもしれません。
 
 ということで、

 アオキの不等葉が発現している場所で、11対の向背軸側へ二又分枝する枝を測定した結果

 向軸側の分枝の長さの平均は23.8㎜、背軸側の分枝の長さの平均は85.9㎜でした。

 両者T検定の結果、p値は0.0003となり、両者の分枝長の間に有意差が認められました。


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 人々は皆平等で善意に溢れている、などという話を信じたくなるほど、この地は平和豊か自然に満ち溢れています。

 時々事実を知らせようと大地は揺れて楼閣を崩しますが、幾たびか雨が降り、陽の光が山河を照らせば、地の民は何事もなかったかのように暮らし始めます。

 金や名誉や権力といった人生の玩具から目を逸らせば、誰もが四季を彩る花々が山紫水明の地に咲き揃うことに気付くはずです。

 数百万年前に森から草原へ二足歩行を始めた猿人達の物語は、荒野を知恵と勇気で乗り越えた風雪の旅を伝え、明日へ歩み続ける勇気を与えてくれます。

 雲は流れ、葉そよぎ、腕に抱く嬰児の瞳に映す新緑を求め、さあ、今日もまた、花咲く森や草原へと歩を進めましょう


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   ハコネウツギ 位置     ホソバタイサンボク 位置

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    ニオイウツギ 位置      Stewartia Sinensis 位置

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    アマチャ 位置     カシワバアジサイ 位置

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ウツギ 位置       カナウツギ 位置

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ヤマアジサイ 位置       セッコウガキ 位置

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      イボタノキ 位置     ヒイラギズイナ 分類標本園

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    ザクロ 位置     ネジキ 分類標本園

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スイカズラ 分類標本園     フユサンゴ 位置    

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ビャクブ 薬用保存園   マオウ 分類標本園 

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 ドクダミ 位置   チガヤ 薬用保存園
 
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イブキトラノオ 薬用保存園  シロツメクサ  分類標本園


(2016年5月25日 小石川植物園にて)


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 ついこのあいだ、花の下で、花の命の短さを嘆いたと思ったのに、あたふたと過ぎゆく日々の中で、ため息一つ付いて横を見れば、庭の片隅に早くも初夏の花が咲き始めています。

 知らぬ間に田植えも終えたと、嫁の実家から聞えてきました。

 木々の梢に新緑が重なり、青空に白い雲が浮かぶ中、色鮮やかな花達が蝶や蜂を集め、命の賛歌を奏でています。

 
 忙中閑あり。

 今日は、小石川植物園に咲き始めた初夏の花々をご覧頂こうと思います。


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   アジサイ 位置   ノアザミ 位置の周辺

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アメリカキササゲ 位置    カルミア 位置    


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オオトウワタ 分類標本園    コトネアスターの一種 位置

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   マリアアザミ 位置   シモツケ 分類標本園 


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    ガビハナミズキ 位置    バイカウツギ 分類標本園 

イメージ 12 イメージ 13
 ムシトリナデシコ 分類標本園   ヨウシュヤマゴボウ 分類標本園

イメージ 15 イメージ 16
テイカカズラ 分類標本園   マルバチシャノキ 位置


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左右 ハナキササギ 位置
 

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イワガラミ 分類標本園



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 筆者は以前、メタセコイアウォレマイ・パインでは、下図で説明するように、側枝の向背軸の葉に不等葉性が認められることをレポートしています。
 

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 一方チョウセンレンギョウやタイワンツクバネウツギなどの十字対生で、葉を側枝にX型に配置する樹種では、メタセコイアやウォレマイ・パインと同様、葉は側枝の向背軸側に交互に位置するように見えますが、それらの樹種に不等葉性が発現しているようには見えません。

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左:チョウセンレンギョウ    右:タイワンツクバネウツギ
   
 しかし筆者は、それらの樹種では、枝の上下に連なる葉がメタセコイアのように密に隣接しない為に、葉の大小に差がないように見えるだけかもしれないとの疑念を持ち、実際に計測を行う必要性があると考えました。

 そして新緑の季節、タイワンツクバネウツギに葉が出揃ったタイミングで葉の長さを計測してみました。

 測定方法はいつも通りに葉の長さを測り、その値を記した付箋を葉に貼り、それをデジカメで撮影し、得られた結果のT検定を行いました。
 
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 タイワンツクバネウツギの4本の側枝で、メタセコイア同様、向軸側と背軸側に位置する計22対の葉を計測しました。

 葉の長さの平均は向軸側の葉が38.9㎜、背軸側の葉は38.7㎜でした。

 両者間のT検定のp値は0.92となり、「向軸側と背軸側の葉の間に差があるとは言えない」結果が得られました。

 上に記したように、全く同じメソッドで、メタセコイアとウォレマイ・パインの対生葉に不等葉性を確認しています。

 タイワンツクバネウツギの向背軸に位置すると判断する対生葉は、メタセコイアなどと外見上は同じ様に見えますが、不等葉性を確認することはできませんでした。

 筆者は、裸子植物の仮道管と被子植物の道管などの構造上の差異が側枝内部の植物ホルモンの動態に影響している可能性や、潅木状の樹種に存在するだろう特異な植物ホルモン動態が、今回の結果に繋がったのではと考えています。

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