好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2016年04月


 追伸(2017年6月3日)
 以下の記載内容は2017年5月の追試で誤りであることを確認しました。


 2015年4月23日の当ブログで、アオキの花序のすぐ脇の側枝の伸長は、雄花と雌花で、性差に因って著しく差が生じると記載しました。
  
 相当数のアオキを観察しての結果ですから、記載内容に確信を持っていたのですが、年が明けて、アオキの観察を再開すると、もしかして、雄花が大きく雌花が小さい為に、眼の錯覚で、花脇の側枝の大きさが、そのように見えるだけもしれないと、誰かが心の中で囁き始めたのです。

 アオキ雄花(左)の花序は大きく、雌花(右)の花序は小さい。

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 筆者は、一度判断しても疑念を持ったならば徹底検証しなければ、晩酌を美味しく飲んではいけないと我が身を戒めてきました。

 という訳で、晩酌を美味しく飲む為にも、雄株と雌株のアオキの花序脇の側枝の生育状況を実際に測定してみることにしました。


 アオキの雄花(左)と雌花(右)

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 しかし、いざ測定するとなると、1.雄株と雌株で花を咲かせるタイミングに差がある可能性、2.生育する環境の違いが、側枝の生育に差を生じさせる可能性、3.側枝生育過程の、どの時点、大きさで測定すべきか等、客観的なデータ取得に当って、三つの留意すべき事項があることに気付きました。

 そこで、とりあえず、①雄株と雌株が並んで、同環境、条件に生育している木を対象とする、②雌雄ともに花を咲かせ終わり、花弁を落としたばかりの木を対象とする、③側枝が第一葉以上を展開し、2節目以上の伸長がみられる枝を対象としない、の3条件を満たす個体を測定対象に定めました。

 ③の条件設定の理由は、雄株は花を終えた後、側枝の生育が回復し、最終的には雌の側枝と差がなくなる筈であろうと考えたからです。(後日確認します)

 もしそうでなければ、5年10年の間に、雄株と雌株の大きさに明らかな違いが生じるべきですが、そのような事実は認められません。

 小石川植物園の正門を入ってすぐ左の、桜の木の下にアオキの雄株と雌株が並んでいます。

 この木に於いて、上記①~③をクリアする枝を測定対象としました。
 
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 例えば、以下のような雄株と雌株の枝は測定対象から除外しました。

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 花序の横の二本の側枝の長い方を測定し、重複測定しないよう、計測後は、計測結果を記した付箋を貼付し、花序と一緒にデジカメで記録しました。

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 測定した枝は雄株で9個、雌株で13個でした。

 雄株の側枝の長さは平均12.9㎜、雌株の側枝の長さの平均は22.3㎜でした。

 2つの値でT検定を行った結果、p値0.005で、「有意差あり」の結果が得られました。

 以上の結果から、次のようなことが言えます。

 アオキの雌株は、花を咲かせた後、側枝が早く生育して花を覆い、実が成熟するまで子房を隠します。

 このことは、種子が発芽できる状況が整う前に、鳥などから未成熟な実を保護する効果があると考えます。

 雄株ではそのような配慮は不要なので、昆虫などのポリネーターに目立つよう、側枝が雄花序を隠さないのでしょう。

 更には、このアオキの状況から、アオキの花を育てる植物ホルモン(オーキシン、エチレン等)雌花側枝の成長、あるいは雄花側枝の抑制に関わっているであろうことが推測されます。


 また今回の検証で、アオキの性差、雌雄性が、花序以外の組織形態に差を生じさせることが明らかとなりました。

 ライオンのように、動物は雌雄の形態に差があることは珍しくありませんが、植物では、花序以外の組織に於いて、雌雄の形態に差が生じるとの報告は極めて少ないのではないでしょうか。

 更には、今回の検証を基に、雌雄異株のシュート変化に着目した観察を続けてゆこうと考えています。


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 春、新しい命が芽生える季節、今年も染井吉野が天蓋を覆う程に枝を広げ、命の喜びを謳っていました。

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 同じ頃、植物園の片隅では、ハチジョウキブシが鈴なりの花を枝に飾り、春に風情を寄せています。
 
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 近づいて観察すると、鐘型の花の中から花粉を纏った雄蕊が顔を覗かせていました。

 どうやら、この木は雄株のようです。


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 キブシは3~5月頃、葉に先だって緑黄色の花を枝先に咲かせる、日本固有の雌雄異株の落葉低木で、全国の明るい林縁などに生育しています。

 ハチジョウキブシはキブシの変種で、東海地方、伊豆諸島などの海岸近くに分布します。

 2メートル近くもあろうかと思う枝先に、10㎝以上の長さに鈴なりの花を咲かせ、その姿は花暖簾そのものです。

 小石川植物園での、私のお気に入り花木の一つですが、趣あるその姿に、多くの人達がカメラのレンズを向けていました。

 昨日、小石川植物園を訪ねると、ハチジョウキブシは緑の葉を茂らせ、春の仕事を終えて、花は安息の時を迎えていました。

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 そんなハチジョウキブシを、私はある思惑を持って、葉が茂る枝のチェックを始めました。
 
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 やっぱり!

 思った通りでした。 

 今月上旬に花を咲かせたハチジョウキブシの雄株に、計19個の実を確認したのです。

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 今月上旬、ハチジョウキブシの花盛りの頃に私は、ヤブサンザシの雄株に実が稔る様子を観察していました。

 そしてそのとき、雌雄異株のハチジョウキブシの雄株にも実が稔るかもしれないと考え、小石川植物園を訪ねる度に観察を続けてきました。

 記録した画像を確認すると、この木の枝は凡そ数百本、一本の枝に垂れて付く花序は30個前後、一花序に咲いた花は50個程度でした。

 枝数を仮に300本とすると(次回の訪問時に数えるつもりです)、約45万個の花を咲かせた雄株の中に、19個の実を稔らせる花があったことになります。

 つまり雄株に咲いた2万4千個の花の一個に実が付いたことになります。

 この場合、実の数に意味があるかどうかは分かりませんが、来年予定しているヤブサンザシの観察では花の数を数えてみようと思います。


 ところで、分類標本園に植栽されたヒマラヤキブシの雌株が鈴なりに実を稔らせています。

 右下写真はこの木の花で、雄蕊が退化している様子が分かります。

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 周囲にヒマラヤキブシの雄株はありませんので、この実の実体は明らかに、日本のキブシとの交配種です。

 実から育てた木を観察する場合、親の木に稔った実は必ずしも同じ種とは限らないと、この木は語っているように思えます。


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 小石川植物園の日本庭園の池の畔でハナキササゲ(位置)の枝に新しい枝芽が伸び初めました。

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 5月の末か6月の初め頃には、きっと今年も下の写真のような見事な姿を見せてくれるでしょう。

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 ハナキササゲの葉序を確認すると、どうやら三輪生のようです。
 
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 そして、ハナキササゲの三輪生に、見事な不等葉が発現していました。


 白い線より上の、向軸側にある、の三輪生の葉二枚よりも、下側にある、三輪生のもう一枚の赤🔴の葉が大きく、黄色い印を付けた葉の三輪生でも、白線より上の黄の葉よりも、下側の黄の二枚の葉が大きいことが分かります。

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 分かり易い写真が欲しかったので、周囲を見回すと、隣の枝に典型的な三輪生の不等葉を見付けることができました。

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 ハナキササゲの不等葉性を確認したその足で、台地の上のアメリカキササゲ(位置を見に行きました。

 アメリカキササゲも新しい葉を枝に伸ばし、ハナキササゲと同様、枝の向軸側の葉が小さく、背軸側の葉が大きい三輪生の不等葉性を見せていました。

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 太い幹の途中から、一本の新しい枝が伸び、その先が二又に分かれてたので、その様子を確認すると、
 
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 分枝した枝先の三輪生は、二本の枝の中央を向軸側とする葉が小さく、外側の背軸側の葉が大きい、という不等葉性を確認することができました。
 
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 そして、私はこのアメリカキササゲを見て、同じような構造を、以前見ていたことを想い出しました。

 本館の方角から、植物園の閉門30分前を告げるチャイムが聞こえてきました。

 私は足早に、次の目的地であるツツジ園へ向かいました。

 そして、ツツジ園のナンゴクミツバツツジの枝先に、全く同じ構造の三輪生の不等葉を見出したのです。

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 アメリカ原産のアメリカキササゲと九州原産のナンゴクミツバツツジが全く同じ、葉の立体構造を見せていました。


 これこそ、植物が見せる不等葉性が、植物のより原理的な生理、生態現象に因ることの確かな証だと一人納得し、春うららかな、美しい新緑の植物園を後にしたのでした。


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 小石川植物園の薬園保存園に草木の芽が育ち始め、ミソハギが2メートル四方程に若葉を茂らせています。

  左下の赤い線の四角の中に10本程の株がありますから、全体で千株は超えているかもしれません。


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 ミソハギは日本各地に生育する多年草で、細い地下茎を伸ばし群生します。

 7~9月頃になると、茎の先に紅紫色の素朴な花を密に咲かせます。

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 長い卵形の小さな葉を対生し、これを上から見ると十字対生であることが分かります。

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 筆者は樹木で対生葉序の観察を続けてきましたので、草の対生であっても、条件反射的に葉序を確認する習性が身に付いてしまったようです。

 そして、やったぞ! 

 見付けました、螺旋葉序と三輪生。

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 全体で千株程の中に螺旋葉序を3株、三輪生を一株見出しました。

 筆者は、多くの対生葉序の樹種に螺旋葉序と三輪生が発現することをレポートしてきましたが、草本で同様の変化を見出したのは、このミソハギが初めてです。

 以前、シナノアキギリが不等葉性の傾向を見せることを、その後、多くの草本に不等葉性を見出してきましたので、今回のミソハギの葉序変化は想定内だったのですが、観察者としては非常に嬉しい発見となりました。


 コクサギ型葉序の構造を考え始め、進化の元になったと思われる対生葉序を観察昨年11月には被子植物だけでなく、裸子植物にも対生葉序から螺旋葉序への変化が起こることを確認してきました。



 そして今回、十字対生から螺旋葉序への変化は草本でも起きることが確認できました。

 これらの観察から、十字対生から螺旋葉序への変化は、全ての種子植物にとって極めて一般的な現象であるように思えます。

 そして、これまでの状況証拠の積み重ねから、葉序進化は十字対生からダイレクトに螺旋葉序に移行する可能性が高いと考えます。

 以前にも述べましたが、十字対生を示す植物種、螺旋葉序の植物種数に比べ、コクサギ型葉序の数があまりにも少ないことから類推すると、少なくとも、十字対生から一旦コクサギ型葉序を経て、螺旋葉序に移行した事例がないとは言えませんが、葉の変化のパターンから考え、可能性は極めて少ないだろうと考えます。
 
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 小石川植物園の分類標本園のトチノキは、毎年人の背丈ほどに強い剪定を受けます。

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 トチノキには少々気の毒な気がしますが、枝葉の観察には、これ以上の好条件はありません。

 通常であれば、トチノキは20メートル以上の高さで花を咲かせ、葉を茂らせますので、葉の状態や葉序を観察することは殆ど不可能です。

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 しかし、分類標本園のトチノキは目の前で葉が展開するので、筆者はこの木で、トチノキの不等葉性や、三輪生の発現を確認することができました。



 そして今回新たに、このトチノキは興味深い現象を筆者に見せてくれたのです。

 まずは下の写真①をご覧下さい。

 
イメージ 3 写真①

 別に何の変哲もない、普通の側枝のように思われるでしょうか。

 しかし、下の正常なトチノキの枝の写真②をご覧になってから、もう一度写真①を見て頂ければ、何かおかしいと気付かれる方がいると思います。

 蛇足ですが、トチノキは葉が対生し、長さ10~20cmの葉柄の先に大きな手の平状の葉を付けます。

 
イメージ 4 写真②

 トチノキの葉序は十字対生です。

 写真①では、分枝後に最初付く葉柄が一本しか写っていません。

 写真②のように、分枝であっても、トチノキは通常葉を十字対生に二枚つけます。

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 つまり、写真①では、分枝後に付く葉のうち、向軸側(斜め横に伸びた枝の上側に赤棒で示した位置)にあるべきはずの葉が一枚足りないのです。

 この木は、他の枝でも同様の現象を確認することができました。

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 但し、分枝後の第一葉が、幹から横へ伸びる枝に水平に付く場合は(とりあえず横腹側と表記します)、側枝の十字対生に乱れは生じません。

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 この現象は、以前このブログで紹介した、キョウチクトウ分枝後の向軸側の葉の欠如を思い起こさせます。


 そして、そのとき推測した、「分枝後の枝の最初の節の葉の向きが、枝の両側へ出るようにプログラムされているのではなく、向軸側へ葉を出すことが抑制されている」を、今回トチノキが裏付けたと思えるのです。

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