好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2015年07月

 
 小平市東京都薬用植物園で裸子植物の不等葉性を観察してきました。
 
 
 タカネゴヨウ マツ科 薬用植物園
 
 
イメージ 1

 
 カヤ イチイ科  薬用植物園
 
イメージ 2
 
 
 薬用植物園のイチイで面白い現象を確認しました。
 
 左写真の赤丸を右写真で拡大しています。
 
 葉が①→②→③と枝の下(背軸側)へ位置を変えてゆきますが、その位置に応じて葉が長さを増します。
 
 
 イチイ イチイ科 薬用植物園
 
イメージ 3 イメージ 4

  
 イチイは線形の葉が枝の周囲を螺旋状に取り囲みますので、枝が地面と水平方向に伸びると、下の写真のように、葉の位置が枝の上方(向軸側)から下方(背軸側)へ少しずつ移行することになります。
 
イメージ 5 小石川植物園
 
 
 筆者は裸子植物が見せる、横向き(向背軸方向)に伸びた枝に発現する不等葉性を、オーキシンの濃度勾配に関わるものと推測しますが、葉の位置が枝の下側へ移動する毎に、葉の大きさが増大する現象は、その推測を裏付けるように思えます。

 
 イヌガヤでも同様の現象を確認しました。

 葉が①→②→③と枝の位置を変化させる毎に、僅かずつ葉が長くなるように見えますが、如何でしょうか。
 
イメージ 6

 当然なことに、筆者はこの植物園でも枝を持ち帰ることができません。
 
 近い内に何とか、イヌガヤの葉を実際に計測し、葉の枝に於ける位置と長さの関係を数値で確認したいと考えています。
 
 
筆者のホームページ 「PAPYRUS
 
 

 
 裸子植物の不等葉性の観察を続けています。
 
 今回は東京大学付属日光植物園の観察結果をご紹介します。
 
 日光植物園では6種類の裸子植物の不等葉性を確認することが出来ました。
 
 カラマツ マツ科 日光植物園
 
イメージ 1 イメージ 2  

 チョウセンゴヨウ マツ科 日光植物園
 
イメージ 3 イメージ 4
 
 ハイマツ  マツ科 日光植物園
 
イメージ 5
 
 ヒメマツハダ マツ科  日光植物園
 
イメージ 6
 
 コウヤマキ マキ科 日光植物園
 
イメージ 7 イメージ 8

 チャボガヤ イチイ科 日光植物園
 
イメージ 9

 日光植物園の針葉樹、裸子植物は期待通りの不等葉性を見せてくれました。
 
 
筆者のホームページ 「PAPYRUS
 
 

 
 筆者は以前のブログで、メタセコイアウオレマイ・パインに枝の上側(向軸側)と下側(背軸側)の葉に不等葉性が認められることを紹介しました。
 その結果から、1億8000千年前頃には既に、裸子植物が不等葉性を示す機序を獲得していたであろうことを推測しました。
 (系統分類で植物を比較すれば分かることではありますが・・・)
 
 しかし本来ならばまず、現在の一般的な裸子植物の不等葉性の状況を確認した後に、太古から伝わる植物の不等葉性を語るべきでした。
 
 
 そこで今回、筑波実験植物園に出向き、裸子植物の不等葉性を確認してきましたので、その結果をご紹介します。
 
 
 筑波実験植物園で最初にウオレマイ・パインの不等葉を再確認しました。
 
 筑波では学名の「ウォレミア・ノビリス」と表示されています。
 
 小石川と同様、枝の上側(向軸側)に付く葉は短く、下側(背軸側)に付く葉は長い不等葉性を確認することができました。
 
イメージ 1
 
 このブログを初めてご覧になる方が居られると思いますので、模式図で葉が枝に付く位置を説明します。

 上掲の写真のように、ウオレマイ・パインは中央の枝の両側に葉を出します。
 その状況を詳細に見ると、以下の模式図のように、葉は枝の上側(向軸側)からと下側(背軸側)から、葉の付く位置を左右交互に変化させることが分ります。
 
 
イメージ 2
 
 
 そして、そのような葉の配置を示すウオレマイ・パインやメタセコイアでは、枝から葉の出る位置に応じて、葉の長さが異なる不等葉性が認められます。
 
 どうでもいいような話と思われるでしょうが、葉や枝の成長を促進するオーキシンという植物ホルモンは、枝が地面と水平方向に伸びると,重力に応じて動き、枝の下側(背軸側)に集積し、枝の上側のオーキシン濃度が低く,下側の濃度が高くなります。
 枝の下側のオーキシン濃度が上昇すると,枝の成長速度が上側より大きくなるため、枝は上方へ屈曲します。
 
 そのことを踏まえ、全ての植物でオーキシンが等しく機能しているはずですから、地面と水平方向に伸びた枝の下側(背軸側)に付く葉は、上側(向軸側)に付く葉よりも成長が促進されるだろうと考えます。
 
 オーキシンは枝の伸びる向きや、葉の大きさなど、植物の成長や形態形成に大きく関与しているので、多分、葉序形成パターンにも深く関わるだろうと考えました。
 
 筆者が、様々な植物の不等葉性に着目する理由がここにあります。
 
 
 仮説を立て、それに基づく観察を行います。
 
 しかし残念ながら筆者は、詳細な計測の為に植物園の植物を持ちかえることはできません。
 
 ですが以下の写真から、枝下の葉が枝上の葉よりも明らかに長いことは確認できます。
 
 
 
 ウラジロモミ  マツ科 筑波実験植物園
 
 
イメージ 3

 
 エゾマツ  マツ科 筑波実験植物園
 
イメージ 4
 
 
 
 ドイツトウヒ  マツ科 筑波実験植物園
 
 
イメージ 5
 
 
 モミ  マツ科 筑波実験植物園
 
 
イメージ 6
 
 
 
 アカエゾマツ  マツ科 筑波実験植物園 (差は顕著ではありません)
 
イメージ 7
 
 マツ科だけでなくイチイ科でも同様の現象が見られます
 
 カヤ イチイ科 筑波実験植物園
 
イメージ 8
 
 
 オーキシン作用を想定し、裸子植物の、枝の上側(向軸側)と下側(背軸側)に於ける葉の不等葉性の観察を続けていく予定です。
 
 
 
筆者のホームページ 「PAPYRUS
 
 
 

 
---イチョウの葉はで異なるか---

 イチョウは雄の木と雌の木があり、雌には銀杏(ギンナン)の実が稔り、雄の木には実がつきません。
 
 イチョウは公害に強く、条件の悪い土地にも育つので、各地に街路樹として植栽されますが、独特の臭いがあるギンナンは道路を汚すので、街路樹には実が稔らない雄株が植えられています。
 
 
 知人との話題の中で、「イチョウの雌の葉は丸く、雄の葉は切れ目が入っているので、葉の形で見分けることができる」という話が出ました。
 
 ホント?と思いましたが、百聞は一見に如かずですので、早速イチョウの葉を確認しに行ってきました。
 
 
 小石川植物園の正門を入って直ぐの左手に三本のイチョウが枝を広げています。
 
イメージ 1
 
 正面の木とその後が雄株で、トイレ側の一本が雌株です。
 
 
 
 雌株の枝には実が付いていました。
 
 そしてその葉を見ると、確かに葉には切れ目がなく、丸い扇形をしています。
 
イメージ 2
 

 
 しかし、枝先に付いた葉を見ると
 
 
イメージ 3

 
 葉の中央に切れ込みが入っていました。
 
 また、根本から直接立ち上がった数本の若い枝の葉を確認すると
 
イメージ 4

 
 その枝の葉は、同じイチョウの葉とは思えない程に切れ込みが入った形をしていました。
 
イメージ 5 イメージ 6

  
 この葉を見た限りでは、「イチョウの雌株の葉は丸い」とは言えないと思えます。

 
 次に、その隣の雄株の葉を確認しました。
 
 枝先に、枯れ残った雄花が見えています(写真左下)。
 
 幸いにも4月上旬に、この木に咲いた雄花を撮影していました(右下)。
 
 
イメージ 7 イメージ 8

  
 しかし、上の二枚の写真の葉を見比べても、雄株であるこの木の、花の付く枝の葉に切れ込みがあるようには見えません。
 
 この状況では、「イチョウの雄株の葉には切れ目がある」と言えないことになります。
 
 更に、この木の根元からも、一本の枝が直接立ち上がっていて、その若い枝の葉は、先ほどの雌株同様に、多くの切れ込みが入っていました。
 
イメージ 9 イメージ 10
  
 
 
 小石川植物園には、ここ以外にも複数のイチョウの木があります。
 

 カリン林近くの、住所番号 C040310 の雌イチョウは、根本の周囲に沢山の実生苗が育ちます。
 
 
イメージ 11

 
 その苗の葉を確認すると、全ての葉に明確な切れ込みが入っています。
 
イメージ 12 イメージ 13
 
 
 もし、イチョウの雌の葉が丸く、雄の葉に切れ込みがあるのであれば、ここの数百株にも及ぶイチョウの苗は、常識的には半数が雄株の葉の特徴を、半数は雌株の葉の特徴を持つはずです。
  
 どうやら、イチョウの雌雄を葉の形で見分けられるというのは、単なる思い込みか、未確認の伝聞情報に過ぎないようです。
 
 
 もしかすると、実がなるような、成熟したイチョウの枝の葉を見て「雌株の葉は丸い」、実が付かない若いイチョウの葉を見て、実の付かない木=雄株と判断し、「雄株の葉には切れ込みがある」と思い込んだ話が広まったのかもしれません。
 
 
 これと似た話が、ヒイラギでも知られています。
 
 ヒイラギの木は若い時には、トゲトゲの葉を付けますが、木が成熟すると丸い葉を付けるようになります。
 
イメージ 14 イメージ 15
 
 
 このような現象は異形葉性と呼ばれています。
  
 イチョウが見せる、丸い葉と切れ込みのある葉も、木の枝の成長に伴う異形葉と考えればよいのだと思います。
 
 
 このような知識を持って小石川植物園を訪ね、イチョウの葉とヒイラギの葉を見比べれば、子供達の夏休みの宿題や自由研究のよい材料を提供してくれるかもしれませんね。 

 
筆者のホームページ 「PAPYRUS
全国に花を訪ねる旅 「花の旅」 

 
 小石川植物園 植物配置・植栽位置 情報
 
 
最新第5版

以下は第4版

小石川アドレス帳252
小石川アドレス帳253
2019年3月5日 第4版

 
 
筆者のホームページ 「PAPYRUS
全国に花を訪ねる旅 「花の旅
 
 
 
 

↑このページのトップヘ