好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2015年06月

 
 小石川植物園の分類標本園では、様々な植物が梅雨空の下で緑の葉を広げています。
 
 ヒトツバハギも分類標本園の一隅で、地面と水平方向に茎を伸ばし、その両側に葉を付けていました。
 
 
 筆者は、このような植物が地面と水平方向に茎を伸ばしたときの葉の配置パターンを観察してきましたが、ヒトツバハギも実に多様な葉の配置パターンを見せていました。
 
 以前ヤマブキを観察したときに、螺旋葉序の回転が均一でないことや、枝の捩れで螺旋にゆがみが出ることを確認していますので、ヒトツバハギの螺旋に多彩な変化が現れることは当然のことに思えました。
 
 
 しかし、ヒトツバハギの枝を18本撮影し、その葉の配置パターンを分析してみますと、下の写真で青○を付けたように、4枚の葉が枝の両側へ交互に配置されるパターンを複数の枝に認めました。
 
 
イメージ 1
 
 これはもしかして、螺旋回転の不均一性や枝の捩れによるものではなく、今まで認識していない新しい螺旋回転のパターンかもしれないと考え、その可能性を探ってみることにしました。
 
 
 最初に、上の写真のヒトツバハギの螺旋葉序の開度を調べました。
 
 青3の葉は枝を一周して、青1の葉と同じ枝の右側にありますから、葉の開度を x とすると、葉3枚分の開度 3x は360°よりも大きく、360°+180°=540°よりは小さいはずです。
 
 即ち、葉青3までの状況から開度 x は 120°< x < 180°となります。

 同様の作業を、葉赤11まで行いました。

 青4  135°(540÷4) < x < 180°(720÷4)
 赤5    135°(720÷5)  < x < 180°(900÷5) 
 赤6    120°(720÷6)  < x < 150°(900÷6)
 黄7   128.6°(900÷7)  < x < 154.3°(1080÷7)
 黄8    135°(1080÷8)  < x < 157.5°(1260÷8)
 黄9    140°(1260÷9)  < x < 160°(1440÷9)
 赤10   144°(1440÷10)  < x < 162°(1620÷10)
 赤11   131°(1440÷11)  < x < 147.3°(1620÷11)
 
 上記結果から、11枚の葉で作られる螺旋葉序の開度 x は
 
 144°< x < 147.3° の条件下にあるはずです。
 
 2/5螺旋の開度は 720÷5=144 ですが、この場合に144°ジャストイコールは除外すべきです。
 
 このように144°を目安として、新たな螺旋回転を探しますと 9/22螺旋(9×360÷22=147.2) と 11/27螺旋(11×360÷27=146.7)が、上記条件に合致することが分かりました。
 
 そこでいつもの、螺旋葉序を互生葉序に変換する手法を用いて、9/22螺旋と11/27螺旋による互生葉序のパターンを求めました。
 
 
 9/22螺旋
 
イメージ 3
イメージ 2
 
 この9/22螺旋葉序のパターンの前半11枚分が、上記写真のヒトツバハギの葉の配列と綺麗に一致します。
 

 11/27螺旋
 
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イメージ 5

 
 この11/27螺旋のパターンの11枚目までが、上の写真のヒトツバハギの葉の配列パターンと一致します。
 
 写真のヒトツバハギの葉序は11/27螺旋の一部とみなすことができます。
 
 写真のヒトツバハギの螺旋回転が一定で、枝に捩れが無いのであれば、理論上は開度147.2°の9/22螺旋か、開度146.7°の11/27螺旋の一部分である可能性が考えられます。
 
 このように、肉眼で見分けることが殆ど不可能と思われる微細な開度の螺旋構造も筆者の方法を用いれば判別が可能となり、新たに見えてくるものがあるかもしれません。
 
 
 植物の葉序などでは、フィボナッチ数を前提とした2/5葉序、3/8葉序、5/13葉序等が主であるとされていますが、実際の植物では、フィボナッチ数以外の多種多様な螺旋葉序が発現しているであろうと思われます。

 
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 小石川植物園の標本園ではメハジキやカリガネソウなどの草本類が大きく育ち始めました。
 
 
 シソ科のメハジキはいかにもシソ科らしい花をシュートの頂きに咲かせています。
 
 
イメージ 1 イメージ 2
 

 主軸から幾つかの側枝を広げ、その枝には複葉が十字対生に葉を広げていました。

 
 その葉を確認すると、側枝の天(上側赤○)地(下側黄○)に付く葉は大きさが異なる不等葉性を見せていました。
 
 
イメージ 3

 
 メハジキのすぐ横で対生葉序のカリガネソウも主軸から幾本もの側枝を伸ばしています。 
 
イメージ 4
 
 
 
 その側枝に付いた葉を観察すると、メハジキ同様に、側枝の天(上側赤○)地(下側黄○)に付く葉は大きさが異なる不等葉性を見せていました。
 
 
イメージ 5イメージ 6

 
 このブログでは、昨年11月にアオキの不等葉性に気付いて以来、樹木での不等葉性を見てきましたが、草本類においても木本類と同様の不等葉性を確認することができました。
 
 
 植物の不等葉性は被子植物の葉序のタイプに関わることなく発現し、また裸子植物にも、更には草木の別なく発現するようです。
 
 
 不等葉性がこのように広範な植物に見られることは、植物の普遍的基本的な生理活性が関与していることの証左と考えています。 


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 前回「のんびりゆっくり」さんからコメントをもらったことが切っ掛けで、東山植物園に行ってイソノキを見てきました。
 
 
 イソノキは東山植物園のお花畑から万葉の散歩道に入ったすぐの場所で、道に倒れ掛かるように幹を伸ばしていました。
 
 
イメージ 1

 幹は北の方角を向いています。
 
 幹先の観察しやすい位置で、沢山の枝に葉が茂っていました。
 
 枝々には、開花を待つ蕾が葉腋から花梗を伸ばしていました。
 
 
イメージ 2

 
 沢山の蕾が邪魔をして、葉序を判別し難いのですが、イソノキは確かにコクサギ型葉序を見せていました。
 
イメージ 3

 
 しかし、中には十字対生と見紛うような形も散見されます。
 
 
イメージ 4

 
 そこで、葉を付けた当年枝の付け根を観察しますと、当年枝の第一葉の枝に付く位置が枝毎に異なることに気付きました。
 
 
 例えば、下の写真では、第一葉は枝の真上(向軸側)に当る場所から時計周りに45°程傾いた位置に葉を付けています。
 
 
イメージ 5

 
 隣の枝の第一葉は、枝の真上(向軸側)に当る場所から時計周りに90°の位置に葉を付けていました。
 
イメージ 6

 
 イソノキの全ての枝の葉序は、いわゆる旋回葉序ですが、旋回葉序は見る角度によって、狭義のコクサギ型葉序や互生葉序に見えることは、以前のブログで筆者が指摘した通りです。

 コクサギやネコノチチでは、側枝に付く第一葉の位置に変化は殆どみられません。
 
 しかし、イソノキでは枝に付く第一葉の位置が多彩に変化するようです。
 
 
 筆者は十字対生に於いて、第一葉の位置が固定している植物とそうでない植物が存在するらしいことを観察していますが、旋回葉序にあっても同様の現象が見られることをイソノキで確認することができました。
 
 
 
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 小石川植物園の正門前の坂を途中まで登った左手にウォレマイ・パインが枝を広げています。

 ウォレマイ・パインはオーストラリアのウォレマイ国立公園で1994年に発見され、太古から生存すると推測される、生きた化石と称される植物です。
 
イメージ 1
 
 この樹の枝を見ますと、対生する葉が枝の上側になる向軸側と枝の下側になる背軸側から交互に葉を出していました。
 
イメージ 2 イメージ 3

 その葉の様子は、メタセコイアの葉序を思い出させました。
 
イメージ 4
 
 そう思いながら見ると、枝の向軸側と背軸側の葉に不等葉性が認められる気がします。
 
 早速、数本の枝で向軸側と背軸側の葉を計測しました。
 
 
 結果

 下の様な若緑色の当年枝2本で測定した向軸側と背軸側の葉身長は、
 
イメージ 5

 枝A
  向軸側葉身長 12枚 平均 67.4㎜
  背軸側葉身長 12枚 平均 69.5㎜
 
   T検定P値0.12

 枝B
  向軸側葉身長 11枚 平均 57.4㎜
  背軸側葉身長 11枚 平均 59.9㎜ 
 
  T検定P値0.83
 
  で、2本とも有意差を認めませんでした。
 
 しかし、測定数が少ないので、枝Aと枝Bを合算すると
 
 
 向軸側葉身長 23枚 平均 62.3㎜
 背軸側葉身長 23枚 平均 64.5㎜  
 
 T検定P値0.042となり有意差ありです
  
 
 また、次のような深緑色の前年枝で測定した向軸側と背軸側の葉身長は、
 
イメージ 6
 
 枝C
  向軸側葉身長 22枚 平均 78.0㎜
  背軸側葉身長 22枚 平均 8.08㎜
 
  T検定P値0.015

 枝D
  向軸側葉身長 23枚 平均 63.8㎜
  背軸側葉身長 23枚 平均 64.1㎜
 
  T検定P値0.08
 
 となり、枝C枝Dの両方で向軸側と背軸側の葉長に有意差を認めました

 
 オーストラリア大陸で生き残ったウォレマイ・パインと、中国で生き残ったメタセコイアが、同じように枝の向軸側と背軸側で不等葉性を示すことを確認しました。
 
 これらの結果から、ジュラ紀中期の1億8,000万年前頃に、パンゲア大陸がローラシア大陸とゴンドワナ大陸に分裂する以前に、裸子植物が不等葉性を示す機序を得たであろうことを推測します。 
 
 
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 先日石神井公園へ足を運び、ラクウショウの葉序を観察しました。
 
  前ブログでヤマブキの螺旋葉序を説明しています。

  今回のブログの前に、前ブログをご一読頂ければ幸いです。
 
  また、検索等で初めて来られた方は、こちらのページを参照下さい。
 
 石神井公園で17本のラクウショウの枝を撮影しました。
 
イメージ 1  P1

 その写真を画像処理ソフトで加工し、同じ側に2連続する葉を赤、枝の左右へ交互に3枚互生する葉に白〇を付しました。

 全ての、同じ側に2連続する葉のペアとペアの間に、枝の左右に互生する葉が一組ずつ挟まれます。(下の5/13螺旋葉序模式図を参照下さい)
 
 長い葉の画像を縮小したので画質が落ちて、分かり難いことをご了承下さい。
 
イメージ 2 P2
 
イメージ 3 P3

  
 全17本の枝でこの作業を行い、
 
 白〇でマークした、枝の左右へ3枚互生する葉(写真P、P3で赤い↑)の間にある赤葉ペアの数を数えました。

 下の表で、各セルの数字が赤葉ペアの数です。

 枝1ではペアを4つ数えて3枚互生葉、次にペアを5つ数えて3枚互生葉
 が現れます。
 このように、枝毎の螺旋葉序のパターンが変化します。
 3枚互生間に発現した、枝の片側に2連続する葉のセット数を、
 表の右側にまとめました。
 3セット(5/13螺旋)が13個、4セット(13/34螺旋)が17個、
 その他が1~3個の結果でした。

イメージ 4
 
 下の模式図をご覧下さい。
 枝の左右に3枚互生する葉(黄色い葉)と次の3枚互生(黄色い葉)の間に、葉が3ペア発現する場合は5/13螺旋葉序です。
 
イメージ 7
 
 同様に5ペアの場合は、8/21螺旋葉序と判断できます。
 
イメージ 8

 次に、4ペアの模式図を示しますと、下記のように8/21螺旋葉序のパターンから、最初と最後の葉を2枚ずつ外した形です。
 
イメージ 5
 この場合の回転数は6回半となり、次に続く螺旋葉序は逆向きの三連続互生から始まります(濃緑色の葉)。
イメージ 6
 しかし、考えてみれば、この6回半回転する螺旋は、同じパターンが繰り返され、13回転して螺旋が完結することになります。
 
 つまり、34枚で13回転する螺旋葉序、即ち13/34螺旋葉序が、ラクウショウの白〇印3枚互生の間に、赤印4ペアが配置される葉序の正体です。
 
 図らずも筆者は、P3のラクウショウの葉の写真に、13/34螺旋葉序発現を見ていたことになります。
 
 実際の植物の螺旋葉序で、このような大きな数の確認例はあるのでしょうか?
 
 もしかしたら、ギネスブックものかと、秘かに思っています。
 
 
 さて、数回前に「ラクウショウは8/21螺旋葉序の可能性」と題する一文を掲載しましたが、ヤマブキとラクウショウの螺旋葉序を詳細に観察し、これら螺旋葉序には「ゆらぎ」があることを前提にすべきことが分かりました。
 
 螺旋葉序を観察する場合、一定数以上の個体を観察することと、必要以上にフィボナッチ数に囚われない発想が必要のようです。
 
 
 
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