小石川植物園の分類標本園では、様々な植物が梅雨空の下で緑の葉を広げています。
ヒトツバハギも分類標本園の一隅で、地面と水平方向に茎を伸ばし、その両側に葉を付けていました。
筆者は、このような植物が地面と水平方向に茎を伸ばしたときの葉の配置パターンを観察してきましたが、ヒトツバハギも実に多様な葉の配置パターンを見せていました。
以前ヤマブキを観察したときに、螺旋葉序の回転が均一でないことや、枝の捩れで螺旋にゆがみが出ることを確認していますので、ヒトツバハギの螺旋に多彩な変化が現れることは当然のことに思えました。
しかし、ヒトツバハギの枝を18本撮影し、その葉の配置パターンを分析してみますと、下の写真で青○を付けたように、4枚の葉が枝の両側へ交互に配置されるパターンを複数の枝に認めました。
これはもしかして、螺旋回転の不均一性や枝の捩れによるものではなく、今まで認識していない新しい螺旋回転のパターンかもしれないと考え、その可能性を探ってみることにしました。
最初に、上の写真のヒトツバハギの螺旋葉序の開度を調べました。
青3の葉は枝を一周して、青1の葉と同じ枝の右側にありますから、葉の開度を x とすると、葉3枚分の開度 3x は360°よりも大きく、360°+180°=540°よりは小さいはずです。
即ち、葉青3までの状況から開度 x は 120°< x < 180°となります。
同様の作業を、葉赤11まで行いました。
青4 135°(540÷4) < x < 180°(720÷4)
赤5 135°(720÷5) < x < 180°(900÷5)
赤6 120°(720÷6) < x < 150°(900÷6)
黄7 128.6°(900÷7) < x < 154.3°(1080÷7)
黄8 135°(1080÷8) < x < 157.5°(1260÷8)
黄9 140°(1260÷9) < x < 160°(1440÷9)
赤10 144°(1440÷10) < x < 162°(1620÷10)
赤11 131°(1440÷11) < x < 147.3°(1620÷11)
上記結果から、11枚の葉で作られる螺旋葉序の開度 x は
144°< x < 147.3° の条件下にあるはずです。
2/5螺旋の開度は 720÷5=144 ですが、この場合に144°ジャストイコールは除外すべきです。
このように144°を目安として、新たな螺旋回転を探しますと 9/22螺旋(9×360÷22=147.2) と 11/27螺旋(11×360÷27=146.7)が、上記条件に合致することが分かりました。
そこでいつもの、螺旋葉序を互生葉序に変換する手法を用いて、9/22螺旋と11/27螺旋による互生葉序のパターンを求めました。
9/22螺旋
この9/22螺旋葉序のパターンの前半11枚分が、上記写真のヒトツバハギの葉の配列と綺麗に一致します。
11/27螺旋
この11/27螺旋のパターンの11枚目までが、上の写真のヒトツバハギの葉の配列パターンと一致します。
写真のヒトツバハギの葉序は11/27螺旋の一部とみなすことができます。
写真のヒトツバハギの螺旋回転が一定で、枝に捩れが無いのであれば、理論上は開度147.2°の9/22螺旋か、開度146.7°の11/27螺旋の一部分である可能性が考えられます。
このように、肉眼で見分けることが殆ど不可能と思われる微細な開度の螺旋構造も筆者の方法を用いれば判別が可能となり、新たに見えてくるものがあるかもしれません。
植物の葉序などでは、フィボナッチ数を前提とした2/5葉序、3/8葉序、5/13葉序等が主であるとされていますが、実際の植物では、フィボナッチ数以外の多種多様な螺旋葉序が発現しているであろうと思われます。