好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2015年05月

 
 不等葉という言葉はありますが、不等枝という言葉があるかどうかを筆者は知りません。
 
 しかし、昨年12月7日の「十字対生の不等葉と側枝の不等性」で述べたように、アオキやガビハナミズキとタニワタリノキなどで、不等葉が発現する場所に於いて、側枝の不等性を観察しました。

 筆者はその理由を、不等葉を発現させる植物ホルモン等が、側枝の伸展にも影響している可能性を推測します。
 
 不等葉の発現と同様の機序で、水平方向に伸びた枝の側枝に長短が生じるのであれば、不等葉にならって不等枝という言葉を用いることが許されると考えます。

 植物学用語辞典(八坂書房)には、「対生または輪生葉序にあって1節につく葉の間に異形葉性がみられる場合は、とくに不等葉性 anisophyllyと呼ぶ。例えば、クサギでは大きさの異なる2枚の葉が組みとなって十字対生する。」と記されています。
 
 筆者は互生葉序にも不等葉性が認められることを確認しましたので、植物学用語辞典の説明を「同年枝の中の同一節、ないしは特定葉の前後やその近傍の葉の間に異形葉性が見られる場合に不等葉性がある」と解釈し、更には「葉」という語を「枝」に置き換えた解釈が、筆者の意図する不等枝、ないしは不等枝性です。
 
 ※ 蛇足ですが、筆者は素人です。ここの記載は個人的な見解です。学術的に認められたものではありません。
 
 
 その主旨が、筆者の「不等枝」の意味するものですが、その内容は、本年5月15日の「互生葉序の不等葉性の確認」の中で述べた、「不等葉を発現させる樹は、地表へと向かって側枝を伸ばす」と同様の現象を見ていることになります。
 
 ところで、今回筆者は小石川植物園で以下のようなラクウショウの側枝を観察し、不等枝性と判断しました。
 
 
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 ラクウショウが上記画像の左端から右へと褐色の枝を伸ばし、その枝から複葉のようにも見える側枝を、上下左右に数多く伸ばします。
 
 
 画像の左端から伸びた、褐色の枝の上側(向軸側)に付く側枝と、褐色の枝の下側(背軸側)に付く側枝の長さに明確な差を認めます。
 
 なので、それら側枝の長さを測定しました。

 ラクウショウは互生葉序なので、計測に当って、側枝が上側(向軸側)にあるか下側(背軸側)にあるかの基準を以下のように定めました。
 
 
 上側(向軸側)とは、元枝を真上から見て、その枝に付く側枝幅が元枝の幅の中に納まっているもの。

 下側(背軸側)とは、元枝を真上から見て、その枝に付く側枝幅が、完全に元の枝の陰に納まっているもの。
 
 
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 計測結果です。
 
 
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 上側(向軸側)の側枝長の平均は103.7㎜、下側(背軸側)の側枝長の平均は148.3㎜でした。
 
 
 
 エクセルでT検定を実施し、両者に有意差を確認しました。
 
  以上のことから、十字対生のアオキやガビハナミズキやタニワタリノキなどと同様、互生葉序の裸子植物に於いても、側枝の出現する場所が、元枝の上側(向軸側)か、下側(背軸側)かに因って、側枝の大きさに差が生じる不等枝性が見られる場合があることをラクウショウで確認しました。
 
 
 

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 では、コクサギと同様のコクサギ型葉序を見せるヨコグラノキやネコノチチはどうなのという疑問が生じます。

 そこで、十分に葉も出揃た、小石川植物園の分類標本園に出向き、ヨコグラノキとネコノチチの葉の長さを測ってきました。
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   ヨコグラノキ                ネコノチチ

 正直なところ、ヨコグラノキはさておき、ネコノチチに不等葉性は認められないだろうと予測していました。

 計測する前の一瞥で、ネコノチチの葉に大小があるようには見えなかったからです。 
 
 結果をご紹介する前に、繰り返しにはなりますが、このページへ直接来られた方の為に、再度コクサギ型葉序の構造を模式図で示します。
 
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 コクサギ型葉序を枝先から見ると十字対生状に見えます。
 
 コクサギ型葉序は赤①②と、枝の右側に二枚葉を並べた後、今度は枝の左側に白①②と二枚の葉を並べます。
 
 そのとき、枝の左右に並ぶ二枚目の葉は必ず枝の下側(背軸側)に配置され、その「二枚目の葉は一枚目の葉よりも必ず大きくなるという不等葉性を示す」という仮説を検証するのが今回の目的です。

 下の写真が、ヨコグラノキとネコノチチの樹種のコクサギ型葉序の様子です。
 
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 計測結果は以下のようになりました。

 ヨコグラノキ 各27枚計測
 赤白①に該当する、枝の上側(向軸側)の葉身長 平均 8.52㎝
 赤白②に該当する、枝の下側(背軸側)の葉身長 平均 9.49㎝
 
 T検定 P値 0.0005 有意差あり
 
 ネコノチチ 各41枚計測
 赤白①に該当する、枝の上側(向軸側)の葉身長 平均 11.95㎝
 赤白②に該当する、枝の下側(背軸側)の葉身長 平均 12.64㎝

 T検定 P値 0.0007 有意差あり
 
 以上の結果から、コクサギ型葉序を見せるヨコグラノキとネコノチチに於いて、枝における葉の向背位置(葉が枝の上側にあるか下側にあるか)が不等葉をもたらす要因であることが確認できました。
 
 しかし、小石川植物園分類標本園という特殊な環境で、継続的に強剪定を受ける標本樹の観察結果であることを考慮する必要があるかもしれません。

 また、十字対生の樹種全てに不等葉性が見られるわけではないことから、「コクサギ型葉序の樹種全てに不等葉性が発現する」との結論を得るには、より多くの観察を積み重ねる必要があるだろうとも考えます。
 
 更には、コクサギと異なり、今回測定した樹種は樹高が高く、葉の展開する環境は大きく異なります。
 
 前回のブログ「もう一つのコクサギ型葉序のメリット」で述べた内容に反し、今回確認したヨコグラノキとネコノチチの不等葉性が、樹に大きなメリットをもたらしているようには観えませんでした。

 葉序は、樹木の生存競争に大きな影響を及ぼしますが、樹種によっては、葉序以外のファクターが樹の生存繁殖に大きく寄与することもあるでしょうから、必要以上にコクサギ型葉序という形に依存したメリットを考えることは、考察のラビリンスに迷い込む可能性が無きにしも在らずです。
 
 木と森を同時に見るような、注意深い観察が求められそうです。 
 
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 筆者は以前のページ「コクサギ型葉序の変形」で、螺旋葉序が種々の木々で左右の螺旋を見せることを確認しています。

 
 このときから、螺旋葉序の回転方向の発現頻度を一度は確認検証しておきたいと、ずーと考えていました。
 
 
 そんな時、小石川植物園を散策していますと、薬用保存園の裏手で、ヤマブキが若々しい葉を並べていました。
 
 
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 ヤマブキは螺旋葉序を平面状に並べています。
 
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 この状態であれば、以前のページ「互生葉序の螺旋が横を向くと」でご紹介した内容を応用すれば、螺旋回転の向きを容易に判断することができます。
 
 
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 枝の根本側に付箋で印を付けて、枝の片側に二枚並んだ葉柄の位置をデジカメで、ランダムに30セット記録してゆきました。
 
 結果です。
 
 ヤマブキの螺旋葉序の左右の回転方向は、下記に示すように、ほぼ同等の発現率でした。
 

 右螺旋:14枝
 
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 左旋回:16枝
 
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    今日は、本当に暑くて、木陰での作業が望ましい一日となりました。
 
 
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 前回までのブログで、ブナ科などの樹木の互生葉序にも不等葉性が認められることを確認してきました。
 
 筆者はそれら不等葉性の発現には、オーキシンが深く関与していると推測しますが、ケミカルな手法で植物ホルモン濃度を測定するような、直接的な証を得る術を持っていません。
 
 実際の植物の観察を続け、状況証拠を積み重ねることが筆者の唯一の手段となります。
 
 そこで今回は、ツツジ科ツツジ属の木々に発現する不等葉の観察結果を纏めてみることにしました。
 
 
 最初は「ヒラドツツジ大紫」です。
 
 左下の写真で、赤を付けた枝の上側(向軸側)の葉が、黄を付けた枝の下側(背軸側)の葉よりも小さい、不等葉性を示します。
 
 この不等葉性は、右下の写真のように、葉が枝の上側(空を向く方向)にあるか、下側(地を向く方向)にあるかではなくて、分枝の向軸側か背軸側かによって規定されます。
 
 
 筆者は以前、アオキの分枝状況を水準器を用いて観察しましたが、そのような行為は全くもってナンセンスです。  ┐(-。ー;)┌ヤレヤレ
 
 
 
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  そのような状況は、ケラマツツジの分枝でも確認することができました。
 
 元の枝からの分枝に付く葉は、何れも向軸側の葉が背軸側の葉よりも明らかに小さい、不等葉性を見せています。
 
 
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 オオヤマツツジでも同様の現象を見ることができます。
 
 
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 ムラサキオンツツジが興味深い姿を見せていました。
 
 ムラサキオンツツジが一本の枝から、二本の枝を分枝した夫々の枝先に三枚の葉を展開していました。
 
 右の枝の中抜き赤の二枚の葉は、黄葉よりも向軸側にあって、黄よりも小さい不等葉性を示します。
 
 また、左の枝の赤🔴の葉は、二枚の黄の葉よりも相対的に向軸側にある為に、黄よりも小さな不等葉性を示しています。
 
 
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 また、4月下旬頃に魅惑的な花を咲かせ、石垣島、西表島に分布するセイシカも
 
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 枝先へ束生状に展開した螺旋葉序に、下から順に、番号を記した付箋を付けてみると、3の番号が付いた向軸側の葉は、その上下にある背軸側の2,4の葉よりも明らかに小さな、不等葉性を示していました。
 
 
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 その他、ツツジ科においてはアワノモチツツジ、シナヤマツツジ
 
 
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  アワノモチツツジ             シナヤマツツジ 
  
 「モチツツジ花車」
 
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 「リュウキュウツツジ南京紫」など、小石川植物園で目にするほぼ全てのツツジ属の葉に不等葉性を確認することが出来ました。
 
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 前回は、イヌビワが見せる不等葉性をご紹介しました。
 
 
 小石川植物園のイヌビワの場所を更に進んで行くと、メタセコイアの林を過ぎた辺りで、大きなアカガシが遊歩道の上に被さるように枝を伸ばしています。
 
 
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 そのアカガシを見上げると、太い枝の途中から地表に向かって枝を下垂させていました。
 
 
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 この状況は、前回ご紹介した、不等葉を発現させる互生葉序の枝の特徴そのものです。
 
 そこで、念の為に、前回同様の方法でアカガシの葉身長を計測しました。
 
 
 枝の上側(向軸側)にある葉と、その葉に対して螺旋葉序の中で前後に配置された二枚の葉が、枝の下側(背軸側)となるものを選択し、3枚ずつ19組、計57枚を計測しました。
 
 
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 その結果です。
 
 枝の下側(背軸側)に位置する「枝元」の葉の葉身の長さの平均は11.2㎝でした。
 
 枝の上側(向軸側)に位置する「上」の葉の葉身の長さの平均は9.5㎝でした。
 
 枝の下側(背軸側)に位置する「枝先」の葉の葉身の長さの平均は10.7㎝でした。
 
 
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 T検定は 「枝元」と「上」でのP値は0.004で有意差有り。
 
 「枝先」と「上」でのP値は0.0266で有意差有りでした。
 
 
 以上の解析からアカガシの不等葉性が確認できたので、園内のブナ科4種を、目視で、葉の上側(向軸側)と下側(背軸側)の大きさをチェックして歩きました。
 
 
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   シラカシ                 スダジイ
 
 
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   シリブカガシ             ツクバネガシ
 
 何れの種でも、互生葉序の枝の上側と下側で定常的な不等葉性の存在を確認することができました。
 
 
 これだけ多くの十字対生や互生葉序の木々で、枝の上側(向軸側)にある葉が小さく、枝の下側(背軸側)にある葉が大きいという不等葉性が観察されたことは、不等葉の成立に、全ての樹種に共通する植物ホルモン、例えばオーキシン等が関わっているのは間違いのないことのように思えます。
 
 
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