好奇心の植物観察

定年退職後に木の観察を始め、草にも手を広げました。楽しい日々が過ぎてゆきます。 (旧ブログ名 樹と木のお話)

2013年05月

 
火曜日(28日)に小石川植物園を訪ねました。
 
 初夏を思わせる爽やかな日々が続き、気温が上昇しておりますので、木や草に次々と花が咲き、散ってゆきます。
 
 今日見ないと、また一年会えない花が咲いているかもしれません。
 
 紀友則さんではありませんが、「静心(しずこころ)なく 花のちるらむ」と嘆きたくなるような気持ちを抑えて、植物園の門をくぐりました。
 
  
 さて、今日はどんな花に出会えるでしょうか。
 
 最初に向かったのが分類標本園です。
 
 入口近くで、ムシトリナデシコが目にも鮮やかに薄紅色の花を咲かせていました。
 
 毎年の定位置に咲く花は、幼馴染に出会ったような安堵感をもたらせてくれます。
 
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 優しい色の花を見て心落ち着くと、前回来た時に蕾を膨らませていたニッケイのことを想い出しました。
 
 薬用保存園へ足を向けると、ニッケイが保存園の中へ伸ばした枝先に、目に染みるような若葉を広げ、6枚花弁のアイボリーホワイトの微かな花をほころばせていました。
 
 
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 「早く見ないと花が散ってしまう!」などと、あくせくしていた私ですが、ニッケイの優雅な表情を目にして、「もっと沢山の花を! もっと沢山のものを!」と気持ちの欲に駆られていた自分に気付かされました。
 
 
 そう、慌てることはありません。
 夫々の草木が命を懸けて咲かせた花を、丁寧に見せて頂くだけで十分に満足できるのですから。
 
 
 薬園の片隅ではアマチャも涼やか色に花を咲かせていました。
 
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 アマチャは、花の真ん中のプチプチした本当の花(両性花)が開花する前に、萼(ガク)で作られた装飾花が周囲を飾ります。
 
 本当に、いつ見ても美しく精緻な造形に感動させられます。
 
 花が咲き、昆虫が訪ね来て、雌雄が合体する喜びの時を迎え、生命が継続してゆきます。
 
 
 「春は喜びの季節で、その後にエネルギー溢れる夏が巡って来るのか! 良く出来てるな~!」 などと、今更ながらのことに感心しつつ園の奥へと進んでゆきました。
 
 
 旧養生所の井戸の奥で、数本のハンカチノキが豊かに葉を広げていました。
 
 白い花が、大勢の人を集めた日から既に一ヶ月近くが過ぎ去っています。
 
 あの頃に、喜びの時を迎えた花はあったのでしょうか?
 
 梢を見上げると、「ありました!」
 
 ハンカチノキの高い枝の先で、緑の果実が風に揺れていました。
 
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 ムフフ。
 ハンカチノキの花を見た人はいるけど、実まで見た人はそうは居ないかもしれない・・・
 
 あ! いかんいかん、人よりも多くなどと、つい・・・
 
 
 ふと横を見ると、ハリグワが地表近くに枝を伸ばし、小さな鈴のような可憐な花を咲かせていました。
 
 マクロで接写すると、何とも魅力的な造形美が見えてきます。
 
 京都の老舗の和菓子でも見ているようです。
 
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 ホッホー、今日も素敵な一日だな~
 
 
 更に奥へ進むと、大きなユリノキの先で、開き始めたカラタネオガタマの花が脳髄へ染み渡るような甘い香りを漂わせていました。
 
 沢山の蕾が開花を俟っていましたので、今度の週末辺りが頃合いかもしれません。
 
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 カリンの林の先では満開のガビハナミズキが出迎えてくれました。
 
 派手さはないのですが、幾何学模様に咲き揃った花の様子がとってもお洒落で、この季節、この花に出会えるのが私の楽しみの一つとなっています。
 
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 さて、最後に今日のハイライトです。
 
 針葉樹の林を抜けて日本庭園を見下ろすと、池の畔でハナキササゲの大木が満開でした。
 
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 自分を焦らし、楽しみを膨らますように、ゆっくりと近づいて行きます。
 
 大きく枝を広げたハナキササゲが、見上げる梢の先まで、たっぷりと贅沢に花を重ね、春から夏へと移りゆく季節を演出していました。
 
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 暖かな陽射しが降り注ぐ芝生では、数組のカップルがシートを広げ、豊かな時の流れの中で、静かに過ぎゆく春を楽しんでいました。
 
 
筆者のホームページ 「PAPYRUS

 
 今日までに夏日も数回経験して、初夏とも思える爽やかな日々が続いています。
 
 前回は、小石川植物園のバイカウツギが、たった一日で満開になったことをお伝えしました。
 
 22日に再び訪ねてみると、そのバイカウツギが更にも麗しさをまして、満願の笑顔で来園者の視線を集めていました
 
 
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 カメラマン、ウーマン達が盛んにカメラのシャッターを押していました。
 
 花の咲くスピードがあまりにも速かったので、私は花の命の短さを懸念していたのですが、この様子ですと、今しばらくは楽しませてもらえそうです。
 
 
 
 分類標本園を進んで行くと、カンコノキに雄花が咲いているのを見つけました。
 
 
 書物には、カンコノキの開花期は通常7~10月と記されますので、今年は平年より気温が高めなのかもしれません。
 
 
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 実は、この木は冬の前にかなり大胆な剪定を受けていました。
 
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上の写真は今年の1月19日に写したものですが、昨年の9月上旬には、下の写真のように、枝の先々に沢山の雄花、雌花を咲かせ、小さなカボチャのような実も実らせていたのです。
 
今年はどうなるのだろうと、植物園へ来る度に様子を見続けています。
 
 
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 2002年に、奄美大島に生育するウラジロカンコノキにおいて、ハナホソガ(小さな蛾の一種)がウラジロカンコノキの雌蕊に産卵し、さなぎは胚珠を餌に生育し、一方でハナホソガは積極的に雄花で花粉を集め、雌花へ運んでくるという絶妙な共存関係が発見されています。 
 
 このようにカンコノキはホソガとの興味深い相互依存関係「絶対送粉共生系」にあることが分かり、注目を集めているようです。
 
 
 植物園を奥へ進みました。
 
 有名なユリノキの先、カリン林の右手奥の塀に沿って進むと、突然、コンペイトウのような花が、通路に敷き詰められている光景にぶつかりました。
 
 
 こんな光景は初めて目にしました。
 
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 見回すと、目の前の2mほどの高さに伸びた、木の枝で沢山の花が鈴なりに咲いていました。
 
 それ以外の枝先にも、あちらこちらで、コンペイトウの花が輝いています。
 
 
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 何の花だろう?
 
 通路へ伸びた太い枝を目で辿ると、その先に直径40cmほどの太い幹が見えました。
 
 周囲を灌木が覆っていますが、そのブッシュを潜り抜けて幹に近づくと、「イイギリ」の名札を目にすることができました。
 
 
 イイギリは雌雄異株です。
 
 雌株は秋になると、高い梢に真っ赤な実を残照に輝かせる姿が印象的ですが、私は雄花を初めて目にしました。
 
イメージ 13イイギリの実
 
 しかも、こんな低い位置で花を見られるとは!
 
 降り敷き詰めた雄花の中に佇み、周囲には人影もありません
 
 まるで天空から降り注ぐ星の中に身を置いたような贅沢な時間が過ぎてゆきました。
 
 
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 どれ程の時を花中に過ごしたのでしょうか。
 
 夢の世界に迷い込んだような思いのまま、私は黒い針葉樹の森を抜けて、坂を下り、日本庭園へと進んで行きました。
 
 
 池の畔を過ぎた梅林の横で、そんな私を、今度は白いウツギの花が優しく出迎えてくれました。
 
 
 ウツギは白い純真な花をこんもりと咲かせていました。
 
 気取りのない優しい姿は、卯の花と呼ばれて、昔から人々に愛されてきました。
 
 
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 夏目漱石の
 
 「細き手の卯の花ごしや豆腐売り」
 
 の句を想い出していました。
 
 小さなリヤカーをひいた、姉さん被りの豆腐売りが、卯の花の垣根越しに豆腐を手渡してくれる光景が目に浮かぶようです。
 
 卯の花と若い女性の白い掌の上の豆腐が、清しい季節の印象を更に深めてくれます。
 
 
 今日も一日、胸に残る沢山の花を見せてもらいました。
 萌え出す若葉の美しさも、また格別でした。
 梢に小鳥達の囀りが響く一日でした。
 本当に麗しい季節が巡ってきました。
 皆様もどうか、芳しき季節の花と緑を心ゆくまでお楽しみ下さい。  
 

 
 一昨日(14日)は小石川植物園に出かけました。
 
 東京はこの日、晴天に恵まれ、日最高気温が25℃以上の夏日となりました。
 
 午前中、私の好きなバイカウツギを見に行くと、多くの蕾がふっくらとして、既に4~5輪が開花していました。
 
 
 ところが、この日が夏日だったためか、もう一度、閉園間際に覗きに行くと、たった一日で満開になっていました。
 
 
 バイカウツギは、爽やかな季節の清しい花ですから、私は永く楽しみたいのに、そんなに咲き急がないで欲しいと、ちょっと複雑な心境です。
 
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 3月の末に桜が咲き誇っていた頃は、右の写真のように、裸の枝しかなかったのです。
 まるで子供達が成長するかのような速さに、只々驚かされるばかりです。
 
 
 今朝は、正門を入った坂の左手で、スダジイの大木が枝々を白い花で飾っていました。
 
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 木々が、太陽の恵みの季節を存分に楽しみ始めています。
 
 
 大樹ばかりではありません、シロバナヤエウツギも上品な花を風に揺らせていました。
 
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 白い花がカラリとした季節によくお似合いです。
 
 
 小さな花のハクチョウゲも、藤色の可愛い蕾を次々と白いブーケに変え初めていました。
 
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 山の中でしかお目にかかれないアワモリショウマも、標本園の片隅で涼しげな装いです。
 
 
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 近くではツルウメモドキがひっそりと花を咲かせていました。
 
 この花は咲き始めて一週間以上が経過しますので、今年はそろそろ見納めかもしれません。
 
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 4時を知らせるチャイムが鳴り始めました。
 何時の間にやら閉園時間が近づいたようです。
 
 
 慌てて見落としは無いかと付近を見渡すと、足元でマオウが剽軽な花を咲かせていました。
 
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 花の季節になると、植物園は見るものが沢山ありすぎて、とても一日では周りきれません。
 
 週末には、また来ることになりそうです。
 

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 小石川植物園の枝垂れ梅の全てに実が生ることを先にご紹介しました。
 
 では、他の花梅はどうなの?という疑問も生じてきます。
 
 
 
 私が確認した限りでは、小石川植物園に65種の梅の品種が植栽されていますが、今回の観察では「開運」「黄梅」以外の全63品種に結実を認めました。
 
 
 
 小石川植物園の「開運」は以前のブログで記載したように、北梅園のE5 1.9 の位置に2本の木があり、いずれも樹勢が弱く花が少ない、開花時期が4月上旬で花粉を提供する品種が付近に見当たらない、という悪条件が重なっていました。
 
 
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 小石川植物園の「開運」
 
 
 「黄梅」は観察日の4月27日、5月2日には写真の様に葉がかなり繁っており、結実を見落とした可能性もあります。
 
 
イメージ 1 ウメの品種「黄梅」の葉
 
 
 また「黄梅」は花が特殊なのと、2本のうちの1本が梅園の外れに位置する為に、花粉を付けた昆虫などの訪問が得にくいのかもしれません。
 
 
 実際に、「黄梅」の周囲の「通小町」「酈懸」「八房」などは、花付きは良くても実付きが良くありませんでした。
 
 これらも、付近に花粉を提供するウメが少ないことが影響しているのかもしれません。
 
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 ウメの品種 「黄梅」の花
 
 
 「黄梅」は花弁が貧弱で、昆虫を誘惑し難い形をしていますが、立派な雌蕊、雄蕊を備えています。
 
 
 良く似た花姿の「酈懸」は「ウメの品種図鑑 誠文堂新光社」には結実する、と記載されていますので、「黄梅」も条件次第では結実する可能性がありそうです。
 
 
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 ウメの品種 「酈懸」の花と実
 
 
 また、この本には以下の4品種は不結実と記載されていますが、小石川植物園梅園では、それらの品種にも写真のように結実を認めました。
 
 
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「鹿児島紅」
 
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「桜梅」          「都錦        「八重寒紅」
 
 
 ツバキでは、ワビスケツバキのように雌蕊が変化する品種でも、稀に結実します。
 ウメの品種も、雌蕊が退化や変化しやすく、不結実と記載されていても、条件次第では上記のように結実することが分かりました。
 
 
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ワビスケツバキ「太郎冠者」の花と子房の膨らみ
 
 
 
 ワビスケツバキの実生から幾多の新品種が生まれたように、不結実とされるウメ品種の種から実生し、新種誕生の可能性が広がれば、また一つ新しい夢が見られるかもしれません。
 
 
 
 

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 最近、染井吉野の枝に実を見付けて、染井吉野が他のサクラと交配できることを知りました。
 
 昨年の春はヤマブキに実が稔ることを知りました。
 
 今までは漠然とした知識だけで、まともに植物を観察していなかったので、見るもの全てが新鮮です。
 
 
 染井吉野の実に関する気付きの後で、ふと、枝垂れ梅には実が生るのだろうか?という素朴な疑問が芽生えました。
 
 
 雌蕊が機能していて、周囲に花粉を提供するウメがあれば、基本的には実が生るはずですが、枝垂れ梅に実がある絵や写真は目にしたことがありません。
 
 私も今まで、実の季節に枝垂れ梅の枝を観察したことはありませんでした。
 
 
 ということで、「百聞は一見にしかず」。
 早速、小石川植物園で枝垂れ梅を見て回りました。
 
 
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  遠州糸枝垂 少量結実          月影枝垂 結実
 
 
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  塒出の鷹枝垂 結実           藤牡丹枝垂 少量結実
 
 
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  司枝垂 少量結実
 
 植栽してある、枝垂れ梅品種の全てに果実を認めました。
 
 
 確認の為に、神代植物公園にも出向き、枝垂れ梅の全7品種を見て回りましたが、全てに結実を認めました。
 
 ということで、枝垂れ梅は、枝が重くなるから実を付けるのを止めよう、とは考えないようです。
 
 
 「花なんだから実が生るのは当たり前」という結論になりましたが、本気で見歩く人は、そう多くないかもしれません。
 
 我ながら、本当にどうも、ご苦労様でした。
 そして、新緑の季節に心地よい時間を過ごすことができました。

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