火曜日(28日)に小石川植物園を訪ねました。
初夏を思わせる爽やかな日々が続き、気温が上昇しておりますので、木や草に次々と花が咲き、散ってゆきます。
今日見ないと、また一年会えない花が咲いているかもしれません。
紀友則さんではありませんが、「静心(しずこころ)なく 花のちるらむ」と嘆きたくなるような気持ちを抑えて、植物園の門をくぐりました。
さて、今日はどんな花に出会えるでしょうか。
最初に向かったのが分類標本園です。
入口近くで、ムシトリナデシコが目にも鮮やかに薄紅色の花を咲かせていました。
毎年の定位置に咲く花は、幼馴染に出会ったような安堵感をもたらせてくれます。
優しい色の花を見て心落ち着くと、前回来た時に蕾を膨らませていたニッケイのことを想い出しました。
薬用保存園へ足を向けると、ニッケイが保存園の中へ伸ばした枝先に、目に染みるような若葉を広げ、6枚花弁のアイボリーホワイトの微かな花をほころばせていました。
「早く見ないと花が散ってしまう!」などと、あくせくしていた私ですが、ニッケイの優雅な表情を目にして、「もっと沢山の花を! もっと沢山のものを!」と気持ちの欲に駆られていた自分に気付かされました。
そう、慌てることはありません。
夫々の草木が命を懸けて咲かせた花を、丁寧に見せて頂くだけで十分に満足できるのですから。
薬園の片隅ではアマチャも涼やか色に花を咲かせていました。
アマチャは、花の真ん中のプチプチした本当の花(両性花)が開花する前に、萼(ガク)で作られた装飾花が周囲を飾ります。
本当に、いつ見ても美しく精緻な造形に感動させられます。
花が咲き、昆虫が訪ね来て、雌雄が合体する喜びの時を迎え、生命が継続してゆきます。
「春は喜びの季節で、その後にエネルギー溢れる夏が巡って来るのか! 良く出来てるな~!」 などと、今更ながらのことに感心しつつ園の奥へと進んでゆきました。
旧養生所の井戸の奥で、数本のハンカチノキが豊かに葉を広げていました。
白い花が、大勢の人を集めた日から既に一ヶ月近くが過ぎ去っています。
あの頃に、喜びの時を迎えた花はあったのでしょうか?
梢を見上げると、「ありました!」
ハンカチノキの高い枝の先で、緑の果実が風に揺れていました。
ムフフ。
ハンカチノキの花を見た人はいるけど、実まで見た人はそうは居ないかもしれない・・・
あ! いかんいかん、人よりも多くなどと、つい・・・
ふと横を見ると、ハリグワが地表近くに枝を伸ばし、小さな鈴のような可憐な花を咲かせていました。
マクロで接写すると、何とも魅力的な造形美が見えてきます。
京都の老舗の和菓子でも見ているようです。
ホッホー、今日も素敵な一日だな~
更に奥へ進むと、大きなユリノキの先で、開き始めたカラタネオガタマの花が脳髄へ染み渡るような甘い香りを漂わせていました。
沢山の蕾が開花を俟っていましたので、今度の週末辺りが頃合いかもしれません。
カリンの林の先では満開のガビハナミズキが出迎えてくれました。
派手さはないのですが、幾何学模様に咲き揃った花の様子がとってもお洒落で、この季節、この花に出会えるのが私の楽しみの一つとなっています。
さて、最後に今日のハイライトです。
針葉樹の林を抜けて日本庭園を見下ろすと、池の畔でハナキササゲの大木が満開でした。
自分を焦らし、楽しみを膨らますように、ゆっくりと近づいて行きます。
大きく枝を広げたハナキササゲが、見上げる梢の先まで、たっぷりと贅沢に花を重ね、春から夏へと移りゆく季節を演出していました。
暖かな陽射しが降り注ぐ芝生では、数組のカップルがシートを広げ、豊かな時の流れの中で、静かに過ぎゆく春を楽しんでいました。
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