テンニンソウカラムシ、そしてタケニグサで確認した、傾く茎に発現する不等葉は、筆者に以下のような新たなアイデアをもたらしました。
 ※ 科学的に実証されていない内容を含む記述です。

 「葉で合成されたオーキシンは、葉柄を経て茎や枝に移動する。茎や枝には、他の部位で合成されたオーキシンが集積し基部へと向かう流れが存在する。葉で合成されたオーキシンが茎へ合流するとき、その茎に流れるオーキシン濃度に比例する抵抗ないし拮抗作用を受ける(仮名:オーキシン流入コントロールシステム「オーキシンゲイト」)。そのため、流れのオーキシン濃度が高い位置(例えば傾いた茎の地側)に接する葉ほど、葉にオーキシンが蓄積し、葉のオーキシン濃度が上昇し、その程度に応じて葉の成長伸長が促され、不等葉性が発現する」 というシナリオで、以下がその概念図です。

オーキシンゲイト


 2014年頃から今日まで、「不等葉性発現にオーキシンが関与する」との仮説の下で筆者は不等葉性の観察を続けてきました。

 そして筆者は最近、オーキシンが葉でも合成されることを知り、それを幾つかの植物種の葉柄屈曲反応で検証することができました。

 数多くの植物種に広く認められる、側枝の向軸側や傾いた茎の上側(天側)【以下A側】に小さな葉が、植物側枝の背軸側や傾いた茎の下側(地側)【以下V側】に大きな葉が育つ不等葉性発現機序を考える場合、V側の葉のオーキシン濃度がA側のオーキシン濃度よりも高くなる現象が確認できて説明が付けば、「不等葉性発現にオーキシンが関与する」仮説の正しさが証明されます。
 
 以前のオーキシンノートにまとめたように、オーキシンは茎頂で合成され、細胞膜上に並ぶPINタンパクによる極性移動で植物の下部へと輸送されますが、

 「オーキシン運河説」では、オーキシンは合流して次第に大きな川のように流れが定まると説明されています。

 そして、オーキシンが茎頂以外に葉で作られるなら、葉を生長拡大させるのは葉で合成されたオーキシンと考えるべきでしょう。

 勿論、オーキシは他の植物ホルモンなどとの協調、拮抗作用の中で葉を生長拡大させるでしょうが、いずれにしても、葉を生長拡大させる作用の強さは、一義的に組織のオーキシン濃度に比例するはずです。

 以前のオーキシンノートに記した、(「新しい植物ホルモンの科学 講談社」に記されている)ように、オーキシンが茎や幼葉鞘の成長を促す濃度は 106 105 M
程度なので、それより濃度が高くなればエチレンの生成が盛んになり、成長が阻害されます。

 例えば、以下のようなカラムシでオーキシンの作用を考えたとき、

 カラムシが以下の状態に茎を維持できるのは、茎のA側(上側)の張力とV側(下側)の伸長力バランスがとれているからであって、そうでなければ、茎は地を這うか立ち上がるかのどちらかの姿勢へと変化するはずです。

カラムシ-不等葉012

 つまり、カラムシがこの状態に茎を伸ばす条件として、茎の伸長成長時のオーキシン濃度は 106105 M に維持されているはずですから、多くの植物種の枝に付く葉の大きさや数が均一でないことなどを考えれば、夫々の葉で合成されたオーキシンが茎に合流するとき、運河の水高を一定に保つゲートのように、茎のオーキシン濃度を一定に保つシステムがなければ、植物はその時々の環境に応じて、光を得る方向に茎や枝の形を整えることはできないはずです。

 オーキシンが葉で合成され、オーキシンが極性移動するのであれば、オーキシンが葉から茎や枝へと移行するとき、茎や枝のオーキシン濃度を一定に保つ、運河のゲートのようなシステムの存在は必須のはずです。

 そして、そのシステムこそが、向背軸性の不等葉や、傾いた茎での不等葉を発現させていると筆者は考えます。

 更には、以前筆者がラクウショウタイワンスギで観察した、側枝の不等枝性も、分枝部にオーキシンゲイトを想定すれば説明が付く可能性があると考えています。

 
筆者のホームページ 「PAPYRUS